中西智明 01


消失!


2001/03/21

 なぜ著作リストがないのかというと、中西智明さんの著作は本作一作のみだからである。同志社大学在学中の1990年10月に講談社ノベルスから刊行され、1993年7月に講談社文庫化されたが、それ以降次作は刊行されず、本作も絶版となってしまった。

 そんな本作だが、本格ミステリーが好きな方限定の作品であると、まず断言しよう。ストーリー性は皆無。単純かつ大胆なトリックこそミステリの命、と言ってはばからないだけあって、読者を騙すことのみに特化している。一切の濁りのなさは、さしずめ本格ミステリーの大吟醸とでも言うべきか。

 タイトル通り、死体と真犯人の消失を扱っている。大きく分けて三つの罠が仕掛けられているのだが、わははははは、これはやられました。露骨すぎるくらいの伏線が、あっちこっちに張られているではないか。文庫版では、さらに堂々と…。でも騙された。実に愉快痛快。うーん、至福の一時であった。

 と僕は拍手喝采を送りたいのだが、人によっては青筋立てて怒りまくることうけあいだろう。本格のスピリットを凝縮した作品であると同時に、本格嫌いな人が指摘するところの欠点を凝縮した作品である。それでいいのだ。だからこそ、綾辻行人さんや我孫子武丸さんの後押しが得られたのだろう。

 一日も早い再会を期して…とあとがきは結ばれているが、結局再会は果たされぬまま。本作のような作品でデビューしてしまうと、後が続かなくなるのも無理はない。読者を騙し続けるプレッシャーの大きさたるや、さぞかし神経をすり減らすに違いない。常に際どい勝負を強いられるのだから。

 この先、中西さんの新刊が刊行されることは期待薄だが、もしも刊行されたら著作リストを作成しよう。同時に、本作の復刊もお願いしたい。本格好きを自認する方は、是非古本屋を探してみよう。手に入れるなら、ノベルス版より文庫版がお薦めだ。その理由は、ここには書けない。



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