西澤保彦 01


解体諸因


2013/05/10

 西澤保彦さんのデビュー作は、バラバラ殺人がテーマという作品集である(厳密には違う作品も含むが…)。少なくとも、僕は他に例を知らない。

 第一因から最終因まで、全9編。トリックに着目した作品は少なく、遺体をバラバラにするという行為の論理性、合理性に着目した作品が多い。とはいえ、バラバラ殺人なんて、本格を盛り上げるお約束の1つであると、僕は割り切っているのだが。

 「第一因 解体迅速」からいきなり苦しい。犯人の思考回路が理解不能で、救いようがない。出鼻をくじかれて「第二因 解体信条」。そこだけ細かくバラバラにした理由は納得できなくもない…が、どうにかできなかったのか?

 最も面白い「第三因 解体昇降」。トリックには必ず盲点があるが、そんな盲点は予想できず。しかし、動機に呆れるしかない。「第四因 解体譲渡」。女性のヌードが載っているあらゆる本を買い占めた女性の話と、バラバラ殺人がどう繋がるのかと思ったら…。

 「第五因 解体守護」。男性にはコメントしにくい。人は死にませんとだけ書いておきましょう。「第六因 解体出途」。何より叔母の強烈な人物像に苦笑する。身から出た錆と言ってしまうのはちと気の毒か。「第七因 解体肖像」。これまたある女性の人物像に苦笑する。身から出た錆だと言い切ってしまおう。彼が浮かばれない…。

 そして、文庫版で180pと本作の約4割を占める「第八因 解体照応」。推理劇『スライド殺人事件』という副題の通り、戯曲形式の変り種だが、7人もの首が次々リレーされるというふざけた1編。飽きる。正直飽きる。一応合理的説明が試みられるが、脱力した…。

 ようやく推理劇を読み終え、「最終因 解体順路」。何と、すべての話は繋がっていたっ!!! かなり強引と言わざるを得ないが、その強引さが微笑ましい。西澤保彦さんご自身、あとがきで本作がギャグになってしまったと述べているが、ギャグで悪いということはない。

 そもそも、本格に合理性を求めるのは無粋というもの。怒る人は怒らせておけばいい。力業を笑い流せる読者でありたいものである。



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