西澤保彦 05


人格転移の殺人


2013/05/16

 本作は本格ミステリだが、あとがきによると、SFとしても高く評価されたという。なるほど、最初からSFだと思って読んだ方がいい。

 突然の大地震で、ファーストフード店に居合わせた6人が逃げ込んだ先は、人格を入れ替える実験施設だった。その存在は米国政府の極秘中の極秘だったが、手に負えないため計画は中断、施設だけはそのまま残されていた。

 それというのも、一度人格転移が起きると、一生人格転移が続くからである。2人ならば相互に人格転移し、3人以上ならば順番に人格がリレーされていく。やがて一巡するが、またリレーが始まる。しかも、転移する時間間隔は一定ではない。

 目覚めた6人は、研究員らしき男から上記のような説明を受ける。彼らは地震の犠牲者として扱われていた。もう自由は望むべくもない。米国政府は、彼らを秘匿しなければならない。今後どうするか相談するように、と言い残して男は去っていくが…。

 どうするも何も、どうしろってんだ一体!!!!! それぞれ思惑があり、結論など出るはずがない。そして、人格と身体がバラバラな人間たちが次々と殺される、凄惨な展開に。身体はAだが人格はB。その場合、犯人は誰だと考えるべきか???

 面白い試みとは思うけれど、ややこしいだけなのが正直なところである。極めて短時間に人格転移が繰り返され、襲う側が襲われる側になり、もう誰が誰だか…。途中で理解するのを放棄したことを告白しよう。と、とりあえず最後まで読むことにする。

 「駒」にしては細かい人物設定には意味があり、動機には背景があることが最後に明かされるのだが、すっかり混乱していて驚けなかった。はあ、そうですか、としか言いようがない。僕はSFパニック小説を読んだと考えることにした…。

 最大の驚きは、事件そのものではなかった。聞いていないぞそんなの!!! 最初から言えって。いや、言えるわけがないか…。うーむ、ハッピーエンドなのかな。



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