西澤保彦 58

モラトリアム・シアター

produced by 腕貫探偵

2013/08/25

 サブタイトルに「腕貫探偵」と入っているが、本人はほとんど出てこない。一応シリーズの1つなのか。で、しつこいようですみません。やっぱりこのシリーズは蒼井上鷹だ。

 短編でも微妙なのに、長編になると微妙さが大幅アップ。人物関係がしっちゃかめっちゃかで、正直大変読みにくい。誰の行動にも共感できやしない。もちろん腕貫探偵にも。色々突っ込みたいが、まず舞台に突っ込みたいぞ。

 櫃洗市にあるミッション系名門女子高、メアリィ・セント・ジェイムス女子学園、通称〈MSJ〉。OGである母にねじ込まれ、新任講師として赴任した住吉ミツヲ。国語の教員免許しかないのに、なぜか英語の講師に…。

 赴任早々、学園内の奇妙奇天烈な人間関係に巻き込まれていく。おいおい、これでも名門女子学園かよっ!!!!! 風紀も何もあったもんじゃねえ。やがて、ミツヲは同僚の妻を殺害してしまった??? 彼自身の封じられた記憶が鍵を握っているらしいのだが…。

 鍵は、ミツヲの記憶というより彼の嗜好ではないのか? こういう嗜好がない僕には、彼の怒りと、記憶を封印した理由にどう突っ込んでいいのか…。西澤先生、ちょっと悪乗りが過ぎませんか。さすがに最後の一線は越えなかったが…。

 ミツヲを含め、どいつもこいつも身勝手で、誰にも共感できない。事件の真相には呆れるしかないわけだが、もう一つの真相は…ここまでしなければいけなかったわけ??? 複雑な物理トリックを駆使した本格に、どうしてわざわざそんな屋敷建てたんだよっ!!!!! と突っ込みたくなる心理に似ているか。しかし、遊び心があるわけでもなく…。

 裏表紙には「三人の個性派探偵が集結」という一文があるが、華麗な推理合戦をするわけでもなく…。ある意味、競演はしているとだけ書いておきましょう。さすがに名声に傷がついたであろうこの学園、この際潰してしまったらどうだ。

 このシリーズ、長編はこれっきりがいいかな…。



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