乃南アサ 01


幸福な朝食


2000/09/16

 悲劇のヒロインにも色々あるが、本作の主人公、沼田志穂子ほど悲惨な主人公もなかなかいないのではないか。ヒロインという言葉を使うのは語弊があるような…。タイトルとは裏腹な作品であると、まず言っておこう。

 沼田志穂子は、幼い頃から誰もが目を惹く美少女だったが、その容貌を鼻にかけているところがあり、友人らしい友人もいなかった。将来は女優しかない、と高校卒業後に上京することを決意していた志穂子。そんな彼女に、ある運命の悪戯が襲いかかる。

 志穂子はそれでも果敢に劇団の門を叩くが、壁は想像以上に高かった。何よりも、彼女の容貌が邪魔をした。夢破れた志穂子は、華やかなスポットライトとは無縁の道へと進み、孤独な人生を過ごしてきた。

 今時、母親になることこそ女性の幸せだ、などと言い放ったら石が飛んでくるに違いないが、母親というものは確固たる地位だと思うし、尊敬に値すると僕は思っている。母親になった女性、あるいは母親になる女性を前にして、新たな道を歩んだ志穂子の眠っていた母性が目を覚ましたとしても、決して不思議ではないだろう。

 殺風景だった志穂子の部屋が、華やかに模様替えされていく様にはぞくりとさせられる。嬉々とした志穂子の姿は、逆に痛々しい。誰にも、志穂子を止められない。

 過去を忘れて、子供のことだけに集中していたかに思えた志穂子だったが、うーむ、このラストは…。今ごろなぜ、という気がしないでもない。突きつけられた現実が、志穂子の忌わしき過去を、破れた夢を、呼び覚ましたのか?

 これは、志穂子が壊れていく物語である。志穂子が壊れてしまう前に、どうしてあなたは手を差し伸べてやれなかったんだ、〇〇さん…と思ったが、一方で志穂子の人間性に問題があったのも否定できない。ミカが、泣いている…。



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