乃南アサ 02 | ||
パソコン通信殺人事件 |
事前に読書仲間から色々と言われていた作品である。で、読んでみたが…笑っちゃうしかないですな、これは。
本作の初版刊行は1990年のこと。1997年になって文庫化されるに当たり、さすがに時代の流れを意識したのか『パソコン通信殺人事件』から『ライン』と改題され、内容も大幅に加筆修正されたようだが…その甲斐もなく古びた印象は拭えない。
ネット社会は仮想現実に過ぎないのだ、外に目を向けなさい。要するにそう言いたいのだろう。広いネット社会のこと、悪意を持った人間たちが少なからずいるのも事実。しかし、それにしても紋切り型すぎる。爆発的にネット人口が増加した現在、あまりにもその危険性に無頓着な利用者が多いのも確かだが。
浪人生の身とは思えない、主人公の自堕落ぶりにも首を傾げてしまう。僕自身、一時期はチャットというものにはまっていたが、僕が感じていた楽しさと、本作の主人公が感じていた楽しさのギャップには頭を抱えた。うーむ…これも一つの楽しみ方なのか?
ただ、本作の安易さの中に僕自身の経験と被る点もある。僕は今では滅多にチャットに参加しなくなった。なぜか? チャットで知り合った面々と、いわゆるオフ会を通じて友人として実際に付き合うようになり、わざわざチャットで話す必然性が見出せなくなったからである。生身の付き合いの方が楽しいんだよね、確かに。
だからと言ってチャットを、ネット社会を否定するつもりは毛頭ない。僕自身、チャットを通じて交友範囲が広がったのだし。言うまでもなく、要は利用者次第なのである。負の領域を描くのは結構。だが、それならもっと掘り下げなければ。
初版刊行当時には目新しいテーマだったに違いないが、改稿したところで現在の読者に読ませるにはかなり苦しい作品だ。