乃南アサ 08

トゥインクル・ボーイ

子供たちの7つの憂うつ

2000/10/11

 うーむ、恐るべし乃南アサ。本作は、子供を中心に据えた短編集である。全7編、嫌な後味が残る短編ばかり。文庫版で250p程度と手頃な長さだが、中身はとーっても濃いぞ。

 あなたの回りに、子供好きな人がいるだろうか。僕自身は…場合によるかな。少なくとも、我が子でもない子供が電車の中で騒いでいる光景を、微笑ましいなどとは思えない。内心むっとしつつ、果たして自分に父親が務まるものだろうか、などと考えたりする。

 「トゥインクル・ボーイ」における少年のある趣味。「三つ編み」における幼女の驚くべき行動。「さくら橋」における父親を知らない少年。三人三様の行為は、彼らなりに自分の居場所を獲得しようとしているだけだ。悪いことをしたなどという意識は微塵もない。無邪気さと邪悪さは表裏一体であることを、読者に突きつける。

 「捨てネコ」、「坂の上の家」、「青空」における、家族とは名ばかりの愚かな親たち。子は親を映す鏡なのか。親を反面教師にして生きる子供だってもちろんいるだろうけど…いずれにせよ、あまりにも悲しいことじゃないか。

 ラストを飾る「泡(あぶく)」は、本作中で最も現実味がある短編だろう。この純粋無垢な少年の両親は、教育方針に大きな食い違いがあるものの、それぞれに我が子を愛してはいるのだろう。しかし…結局は二人とも我が子を利用した。子供の将来を思うのは親なら当然のことだが、子供は道具じゃない。

 香山リカさんによる、精神科医ならではの解説も興味深い。うなずける点は多いのだが、純粋に物語としての濃密さを堪能するべきだという気もする。

 「三つ編み」は、男性作家が書いたら大ひんしゅく間違いなしだな…。



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