乃南アサ 14


暗鬼


2001/02/06

 本作の印象を牧伸二風に述べると、「あ〜あ〜あ やんなっちゃった♪」というところか。あ〜もう、本当にやんなっちゃったよ…。

 今時珍しい、親子四代の九人家族という大家族に嫁いだ法子。心から理解し、助け合い、いつも笑顔の絶えない志藤家の面々。が、法子は次第に奇怪な人間関係や行動の数々に気付く。笑顔の裏に隠された、志藤家の真実とは。

 大学入学以来一人暮らしをしている僕だが、確かに実家に帰省するとほっとするし、家族のありがたみを実感もする。しかし、だがしかし…こんな家族は要らんわ。

 分類に困るところだが、一応はサイコホラーなのか。が、怖いかと問われれば怖くはない。むしろ、気色悪い、汚らわしい、おぞましい、虫酸が走る、下劣…とにかくろくな形容詞が浮かんでこない。ある意味で完成度は高い。しかし、本作に限っては、誉めるためには貶さなければいけないのである。

 法子と志藤家の面々が絶望と歓喜を繰り返す姿は、ドリフターズの有名な夫婦コントを彷彿とさせる。ギャグなのかホラーなのか頭が痛くなってくるが、しっかりとキューサイの青汁のごとき嫌な味付けが施されている。などと書いたらキューサイに失礼か。

 ラストが近付いてくると、ああ、とうとう恐れていた事態が…。一瞬頭に描いた、この世のものとは思いがたい映像はしっかりと焼き付けられ、なかなか消えてくれない。どうしてくれるのさ、乃南さん。あ〜やだやだ…。 

 どう考えても貶しているとしか思えない文章になってしまったが、この濃さといんちき臭さは大したもんだと思う。内容も濃いが乃南さんの文章も濃い。心の底から嫌な気分を味わえることは確実だ。しかも尾を引く粘っこさ。それでも読みたいという方だけどうぞ。ただし、油っぽい食事の後は避けましょうね。



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