乃南アサ 22 | ||
幸せになりたい |
ジューン・ブライドの季節に重版されたらしく、書店で平積みになっていた。実に第18刷。『幸せになりたい』というタイトルだが、幸せになった主人公はいない。
「キャンドル・サービス」。披露宴というのは、新婦の方にこだわりがあるとは限らない。一理あるかもしれないが、豪華な披露宴を中継させた末に離婚した芸能人なんて珍しくはないぞ。タイトルからしてオチは見え見えだってば。
「背中」。不倫の末に結ばれたのに、ああこんなはずでは…。「お引っ越し」。出世に燃えて、上司へのごますりに余念がない独身男。気に入らない社員を追いやった末に、ああまさか…。いずれもオチは途中から見えていた。
心理サスペンスを名乗っている本作中、最もサスペンスらしい「たのしいわが家」。母娘で住み込みで働く寛子は、過去の事情から母に頭が上がらない。だからこそ許せなかった。嗚呼、やっぱりオチは乃南作品なのだった…。
主人公が堕ちていく本作中では異例な「口封じ」。他に就職先がなく、病院の付添婦をしている孝枝。彼女に担当された不運を、ただ嘆くしかない…。結婚にまつわる話を集めた本作中では異例な「挨拶状」。他人の評価に晒されるという点では、作家も大変なのだろうなあ。会社員でも焦る気持ちはわかる。受け流す術を覚えないとこうなる。
ラストを飾るのは「二人の思い出」。紆余曲折の末、身を固める決心をした男。そして披露宴当日…。そりゃ、世の中にはうまく立ち回っている男性もいるんでしょうけど。本作中、最もオチが見え見え。結末に近づくほど苦笑いが込み上げてきた。
近年の作品はどちらかといえば硬派な路線だけに、久々に乃南さんらしいバッドテイストを堪能させてもらった。あとがきにある通り、作中の人物は一つ間違えば自分だったかもしれない。本作を笑い流せる今が、何と幸せなことか。