乃南アサ 33 | ||
不発弾 |
何だかまとまりのない短編集である。嫌な短編を書く作家という僕の勝手なイメージ通りだった作品と、見事に裏切られた作品が同居している。うまさは相変わらずだが。
まずはオープニングを飾るに相応しい「かくし味」。老夫婦が切り盛りする、いつも常連客で満員の小さな店。その「かくし味」とは? ま、まさか…あれ? という僕の予想は外れたが、オチの切れ味は抜群だ。〇の〇〇様とは恐ろしきかな…。
「夜明け前の道」。タクシードライバーという稼業を続けていれば、迷惑な客を乗せてしまうこともあるだろう。中にはこんな客も…まずいないか。
「夕立」。当世女子高生事情…と言ってしまうにはネタが陳腐化しているか。この手の話にいちいち驚かないのは恐ろしいことではある。
「福の神」。ありゃまあ、こんな結末とは。乃南さんらしくもない、とはうがった見方だろうか。注目はある中間管理職の男性の描写。社内か社外かを問わずに嫌われる要素を、すべて兼ね備えている。嫌な人物を書かせたら、呆れるほど天下一品だ。
一押しを挙げるなら、やはり表題作「不発弾」だろう。このタイトルは実に言い得て妙である。ただし、通勤電車の中では読まない方がいい。大なり小なりどこの家庭でもあるだろう話だけに、読後の後味は最悪。独身の僕にもこれはきついぞ。ごく普通の人がある日突然…というのはこういう感覚なのだろうか。
「幽霊」。といっても怪談ではない。窓際に追いやられた男が立ち上がる、乃南さんとしては異例の痛快な話である。この爽快な結末、何か違うと思ってしまう僕は乃南アサという作家を誤解しているのだろうか?
「不発弾」のような話だけでまとめなかったのは、正解だったかもしれない。