乃南アサ 57 | ||
ニサッタ、ニサッタ |
「ニサッタ」とは、アイヌ語で「明日」を意味する。久々に手に取る乃南アサ作品である。
北海道知床出身の主人公・片貝耕平は、浪人の末に東京の大学に進学し、卒業後は東証二部上場企業に就職した。ところが、無名大出身であることを見下され、すぐに辞めてしまう。そして転職した職場に、ある朝出勤してみると…事務所はもぬけの殻だった。
人材派遣会社に登録するものの、どこに行っても長続きしない。現実社会にも掃いて捨てるほど転がっていそうな設定である。やがてアパートの更新はできなくなるわ、ギャンブルにのめりこんで消費者金融から借金を重ねるわ…ありがちな転落の構図に苦笑するしかない。今どきそんな手に引っかかるかよっ!!!
あまりのダメっぷりに、借金取りからも諭される始末である。耕平は、新聞販売店で住み込みで働くことになった。仕事はハードだし、いかにも訳ありな同僚たちに囲まれ、環境はお世辞にもよくない。それでも、拾ってもらった立場を承知している耕平は、ただ黙々と働く。そんな職場に、女性の新入り・杏菜がやって来た。
1つ耕平を見直したのは、杏菜に対する周囲の扱いに怒りを見せること。耕平は解せない。杏菜はなぜ、わざわざここに来た? なぜこんな仕打ちに耐える? きっかけはある事件だった。ある日とうとう爆発した耕平は、郷里に帰ることを決意する。
文庫版下巻は、耕平が知床に帰って以降を描いている。遠回りはしたけれど、東京に見切りをつけ、地元のスーパーでアルバイトをする耕平。ようやく地に足をつけて働き出したかと思いきや…お前、全然吹っ切れていないじゃないかよっ!!!
上巻より長い下巻では、全然懲りていない耕平にただ呆れるばかり。周囲に当り散らすのは筋違いとしか言いようがない。それでも見放さない人がいるのだから、恵まれているぞ。ズシンとした読み応えを覚悟して読み始めたのに、乃南アサ作品にしては実に甘ちゃんな結末であった。なお、杏菜の謎は最後に明らかになる。