乃南アサ 58

自白

刑事・土門功太朗

2010/04/03

 乃南アサさんの刑事物といえば、音道貴子シリーズが真っ先に思い浮かぶが、新たなシリーズは昭和を舞台にした刑事物だという。

 現在でも、足での捜査が基本であることに変わりはないのだろうが、本部へ連絡するため公衆電話を探す必要はないし、サイバー犯罪は日々悪質化するし、科学捜査はさらに進んだだろう。捜査のあり方は、'80年代とは大きく変わっている。

 本作は古きよき時代(というのもおかしいが)の刑事物である。流行歌や事件など、'80年代のキーワードが随所に散りばめられ、『太陽にほえろ!』を知っている世代には懐かしく感じられるだろう。悪く言えば古臭い。若い読者はどのように受け止めるだろうか。

 主人公の土門功太朗は、帯曰く「落としの達人」と言われた男。本作に収録された事件は、容疑者の特定まではさほど手間取らない。その異名の通り、土門がいかに自供を引き出すかが大きな読みどころ。現在なら、人権侵害だと騒がれそうである。実際、「アメリカ淵」で土門は裁判所に呼ばれている。自白の証拠認定は、年々厳しくなる。

 そんな土門は、『太陽にほえろ!』で竜雷太が演じたゴリさんや、『はぐれ刑事純情派』で故藤田まことが演じた安浦刑事のイメージに近いだろうか。経験と勘を尊ぶ昔気質で、情には厚い。土門のような刑事が活躍する場は、今の日本に残されているだろうか。

 唯一の例外が「また遭う日まで」で、逮捕に至るまで散々に振り回される。また、時代はさらに古く、土門の若かりし頃を描いている。どうやら僕の生まれた頃らしい。かつて、東横線の綱島界隈が温泉街だったというのは聞いたことがあるが、今では面影もない。

 僕が読んだ刑事物の中でも、現実の刑事捜査に極めて近い。それ故に、新しさもなければひねりもないし、音道貴子シリーズほど読み応えもない。名物刑事土門功太朗のキャラクターがすべてと言っていいだろう。僕は今後もこのシリーズに付き合おうと思っている。昭和という時代背景がもっと生かせれば、魅力あるシリーズになる可能性がある。



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