乃南アサ 60


禁猟区


2013/09/20

 乃南アサさんの警察小説といえば、音道貴子シリーズが真っ先に思い浮かぶが、本作は正統的な警察小説とは一線を画す。

 警視庁警務部人事一課。と言われてもピンと来ないだろうが、「監察」と言えば何となくわかるだろう。いわゆる、警察内の警察である。功績を挙げた警察官も監察対象だが、一方で重大な違反行為に手を染める警察官を、極秘裏に洗う。

 「禁猟区」。家庭を持ちながら、ホストクラブにはまった女性警察官・直子。彼女は、ホストクラブで借金を膨らませた少女の親から、「解決」の見返りに金を要求していた。終始直子の視点で描かれ、最後の最後に破滅が待ち受ける…。監察官の顔がほとんど見えず、警察小説というよりスパイ小説に近いこの1編が、プロローグとして実に効果的だ。

 「免疫力」。所轄署の組織犯罪対策課に属する風祭。いわゆるマル暴だが、日常的に暴力団と接する彼らは、強く自らを律することが求められる。決して情が入ってはならない。典型的なマル暴とは違うタイプだっただけに、こんなことになったのか。2編目からは、監察官の苦悩も描かれて興味深い。煙たがられてこその監察官とはいえ…。

 「秋霖」。小池のような人物は、どこの業界にもいそうだ。成果らしい成果を挙げたことはないが、上司を無能と罵り、若手には先輩風を吹かせる。何より問題視されたのは…。一発大逆転を狙ったのか、周囲を見返したかったのか、いずれにしても何と皮肉な結果か。それでも悪びれた様子もない小池。ある意味、監察官もお手上げだ。

 最後の「見つめないで」は、監察官自身が事件に巻き込まれる。主人公の沼尻いくみは、警務部人事一課の紅一点。監察に来る前は公安部にいたというから、場数は踏んでいる。それでも女性である。日常の監察業務もあるのに、これはさすがにきつい。見上げた根性と言うべきか、どうしてさっさと打ち明けなかったと言うべきか。

 本作の続編は出るのだろうか。是非シリーズ化してほしい。



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