乃南アサ 共著1

犯意

その罪の読み取り方

2008/09/07

 久しぶりに手に取った乃南アサ作品は、甲南大学法科大学院教授で弁護士の園田寿さんとの共著である。裁判員制度に備えようというわけではないが、乃南さんの短編に描かれた罪を、法曹の立場から解説するという趣向に興味を持ったのだ。

 最初にお断りしておきたい。純粋にミステリーを楽しみたいなら他の作品を探す方がいい。なぜなら、本作のミステリーとしてのレベルは、昼のワイドショーの再現ドラマ程度だからである。それもそのはず、実際の事件や判例などを基にしているという。

 解説を加える都合上、実例に近くなければならないのは理解できる。本作の「小説新潮」連載時のタイトルは『明日は我が身の刑法入門』。実際の犯罪とは、何と行き当たりばったりなことか。100%虚構と割り切って楽しむミステリーにはない、この切実さ。

 あまりにも短絡的で、同情の余地がない「夢の結末」「アーユーハッピー!」「ひと夜の転落」。つい最近も懲役6年という判決が出たが、もっと厳罰に処したい「泣いてばかりの未來」。これってもろに〇イ〇ス〇ー〇事件じゃないかよ「パパは死んでいない」。自分が同じ立場になったらどうするか「ご臨終です」。どれも聞いたことがある話ばかり。

 一方的に糾弾するのはためらわれる「八の字眉」「なりすまし」「逃げたい」のようなケース。自分がやられたらと思うと堪らない「隣人の妻」。自分が裁判員に選ばれたらという視点で読むと興味深い。解説を読むと、一見単純そうでも多くの罪が絡んでいる。

 「あいつの正体」は、乃南さんらしさを唯一感じさせる。数あるストーカー事件だが、これも実際にあった事例なのか、乃南さんのオリジナルなのか…。

 裁判員制度を考える上で、最も困るケースは「その日に限って」だろう。検察側は有罪に追い込もうとし、弁護側は無罪を訴える。裁判員の判断が、被告人の人生を大きく左右する。そんな裁判員制度の開始まで、一年を切っている。



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