貫井徳郎 01


慟哭


2000/05/09

 鮎川哲也賞最終候補作となった、貫井さんのデビュー作である。

 …重い。重い作品は色々読んだつもりだが、本作の重さは色々な意味で異質だ。うまく表現できないが、僕なりに述べるなら、ずっしりと肩にのしかかるような重さではなく、じわじわと全身を圧迫して息苦しくなるような重さを感じた。

 幼女連続誘拐殺人事件の陣頭指揮を執る、警視庁多摩署の佐伯捜査一課長。娘を失った胸の穴を埋めるため、「白光の宇宙教団」なる新興宗教団体に救いを求める、松本という男。二つの物語が並行して進む。

 異例の出世を遂げたエリートキャリアの苦悩。そして、娘を失った松本の苦悩。僕にはエリートの苦悩など知る由もないし、宗教に救いを求める人々の心理も理解できない。それは、僕がエリートではないからだろうし、信仰心のかけらもないからだろう。しかし、それだけだろうか?

 エリートは、常にドロップアウトするかもしれない不安を抱えている。宗教に入信する人々も、藁にもすがりたいほどの不安を抱えている。結局、僕がのほほんとしていられるのは、今現在深刻な不安を抱えていないからではないか。本作を読了して、そのような思いにも捕われた。近い将来、僕が巨大な不安に襲われたら、果たして精神の平衡を維持することができるだろうか…などと考えるほど、僕は繊細な神経を持ち合わせてはいないが。

 決して読了して爽快になる物語ではないことは、予め断言しておこう。少々ネタに触れることを承知で言わせてもうらうと、謎は解けるが解決はしない。ただただ、暗澹たる思いに捕われる。僕としては、喉に小骨がつかえたまま終わってしまったような感があり、正直なところ不満が残った。佐伯の、松本の救いは、一体どこにあるのか。

 嫌いな方は徹底して嫌う作品かもしれない。しかし、僕にとって本作は、読み進めずにはいられないある種の「魔力」を持ったような作品だった。それにしても、『慟哭』というタイトルは言い得て妙である。その真の意味は、読了しなければわからない。



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