貫井徳郎 16 | ||
被害者は誰? |
本格というストイックなジャンルに取り組む作家は、誰もが苦心している。ネタは年々枯渇していく。斬新なネタなどそう思いつくものではない。
僕が読んだ限り、多くは既に先例がある。本格を書く作家に、また本格に精通した読者に怒られることを承知で言わせてもらえば、いかにして既存のネタを料理し、作家のカラーを出していくかの勝負だと思う。これは決して悪いことではない。
例えば、ガチンコ勝負の本格は苦手という読者のために、ユーモアというオブラートに包んでみたらどうだろう。ここに届けられた貫井徳郎さんの新刊は、そんな作品集だ。
容姿端麗にして人気作家の吉祥院慶彦(この胡散臭い名前がポイントが高い)を探偵役とするこのシリーズ。本格としての面白さはもちろんだが、吉祥院の推理に大きな特徴がある。真相に肉薄しているようで、微妙にずれているのだ。それでいて超自信家であり、警視庁捜査一課刑事の後輩をあごで使う。
表題作「被害者は誰?」なんて、何度この手にやられたか。しかし、ルールに則っている以上文句は言えない。「目撃者は誰?」は…まあこういうこともあるさ。「探偵は誰?」は、緻密なロジックと対照的な馬鹿らしさに脱帽。
書き下ろしで収録された「名探偵は誰?」は、本作中最も短いが最も笑えた。このシリーズは、このネタのために存在するかのようではないか。
実は、このシリーズには本作に未収録の作品が存在する。講談社文庫のアンソロジー『「ABC」殺人事件』に収録の「連鎖する数字」。個人的には、この作品こそシリーズの最高傑作と思っているので、本作から漏れたのは残念である。タイトルを「…は誰?」で統一しているので、やむを得ないとは思うが。
重厚な作品が多い貫井さんだが、短編ならではの妙が光るこのシリーズは、是非とも継続していただきたい。今から続編を楽しみにしていますよ。