沼田まほかる 06


ユリゴコロ


2011/12/19

 本作『ユリゴコロ』を手に取った理由は、週刊文春ミステリーベスト10第6位、このミステリーがすごい!第5位となったことはもちろんだが、50代という遅いデビューを果たした沼田まほかるという作家に、興味を持ったからである。

 恋人の千絵が失踪し、父が末期のすい臓がんであることが判明し、母が交通事故で死亡し…と、読み始めてわずか2pにして不幸のオンパレードに見舞われる主人公の亮介。そんな亮介が、父の留守中に実家を訪ね、4冊のノートを見つけた。

 読めばよむほど、ノートの中身が作り物とは思えなくなる亮介。ノートを見つけたことを父に知られてはならない。一笑に付した弟にも協力を頼み、父の留守を狙って少しずつ読み進めようとする。続きが気になって仕事も手につかない。

 過去を追究する展開といい、作中作という手法といい、よくあるパターンだなあというのが読んでいる間の印象だった。「手記」は確かに僕が読んでも嫌悪感を催す内容だが、ミステリ慣れした読者がこの程度で衝撃を受けるとは思えない。

 全体の約2/3で、あれ、もう謎は明かされた? 特に予想外だったこともない。どの辺りが高く評価されたのか、僕は首を傾げた。まだ多くのページが残っているが、あまり期待せずに読み進める。 ところが、謎には続きがあったのである。

 えぇぇぇぇぇ、確かに予想外だけど、何だよそれ…。本作が本格ミステリ・ベスト10だけランクインしなかった一因が、ここにあると思われる。もっとも、沼田まほかるさんとしては本格としてフェアかどうかは関係なく、家族愛の物語を書きたかったのだろう。

 本作が高評価を受けたのは、家族愛の部分に違いない。実際、帯には「幸福」とか「愛」といったキーワードが並ぶ。なるほど、ハッピーエンドと解釈できないこともないが、騙されている感が拭えない。これを一つの愛の形と受け取るべきか、悩ましい。

 まあ、読後感は悪くはないし、不思議と許せる気になったのも事実だ。他の作品も読んで、沼田まほかるという作家の手腕を確かめたい。



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