荻原 浩 05


誘拐ラプソディー


2004/10/31

 僕が読んだ荻原浩さんの作品は本作でようやく5作目だが、ユーモラスさとシリアスさがうまく融合した作風は共通しているように思う。こういう「笑いあり涙あり」な作風は、簡単なようで実は難しい。荻原作品の完成度は、その事実をまざまざと見せつける。

 そんな荻原さんが誘拐ものを書いたらこうなる。いきなり主人公が自殺を図ろうとするシーンから始まるが、なんだこの緊張感のなさは。生への執着が捨て切れない彼の前に、金持ちの息子伝助がひょっこり現れる。一発逆転のチャンスが転がってきた。

 主人公の伊達秀吉は、前科持ちだが根っからの悪人ではない。非情に徹し切れず、伝助の懇願に負けてしまう。荻原作品の主人公たる者、冷酷すぎてはいけない。そこにユーモアが介在する余地がなくなるから。

 詳しくは語られない生い立ち。荻原作品の主人公たる者、過去を明らかにしすぎてはいけない。読者は応援ではなく同情してしまうから。こうした主人公の人物設定の絶妙さで、本作の成功はほぼ決まっていたと言っていい。

 秀吉と伝助を追う側、特にヤクザに注目したい。その筋の者らしい冷酷さはもちろんあるのだが、妙に人間味があるし、タイプも色々。時代とともにこの業界も変わりつつある。だが、いかにもという出で立ちで肩で風切る、昔気質(?)のヤクザ像にすがらずにはいられない。一方で、ハイテクに強い者がいれば今風(?)の者がいる。

 秀吉は緻密な計算をして動いているわけではないのに、追う側の足並みが揃わず、どたばた劇に発展していくところが本作の面白さ。その過程で、誘拐犯秀吉と誘拐された伝助の間には不思議な友情が芽生えてしまう。根がお人よしな秀吉が罠にはまれば、一致団結して危機を乗り切るのだ。

 最後の最後に秀吉を救ったのは、さて誰だろう? それは読んで確かめていただきたい。秀吉の人生は続く。38歳、まだまだやり直しはできるさ。



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