荻原 浩 06


母恋旅烏


2005/01/26

 笑いのツボと泣きのツボを刺激する、荻原浩一座特別公演、本日の切り狂言は『母恋旅烏』なり。「ははこいたびがらす」と読む。そのまんまやん。口はばったいようだが、大衆演劇とは笑いあり涙ありの荻原作品には打ってつけのネタだなあ。

 元大衆演劇役者の花菱清太郎が、家族全員を巻き込んで始めたレンタル家族業。ところが、失敗失敗また失敗、借金がかさみ住む家さえも失う事態に。役者時代の義理で、旅回りの大衆演劇の一座に加わることになったが…。

 前半部分は、レンタル家族業のエピソードに絡めつつ一家の面々を紹介していく、連作短編集のような構成である。コミカルさと家族それぞれの複雑な事情が奇妙なコントラストを織りなす。劇団時代から常に一心同体だった家族たちに自我が芽生えていく点が興味深いと同時に、その後の伏線にもなっている。

 特に、主に語り部を務める次男の寛二。生い立ちについてここでは述べないが、本作が家族の物語であると同時に、寛二の成長記という側面を持つ点は見逃せない。純粋で、真っ直ぐで、ひたむきなその姿を観るがいい。彼の事情がどうしたというのだ。

 万策尽きた清太郎は、かつて所属していた一座の座長の元を訪ねる。座長の息子の一座に加わることになった清太郎一家。ところがこの息子というのが…。あまりの体たらくに、逆に清太郎の役者魂が目覚めていくのが見せ場。「いよっ!」と合いの手の一つも入れてみたい。さすが昔とった杵柄(きねづか)だねえ。

 あとはめでたしめでたし…と思ったらこんな展開が。手前までが順風満帆だっただけに、呆気に取られてしまった。なるほど大衆演劇らしく、落としどころも用意されていたわけである。成長した家族の援軍と、寛二の前向きさが救いだ。

 劇団四季クラスの大手を除けば、どこの劇団も苦労しているんだろうなあ。何はともあれ、花菱清太郎劇団の前途を祝し、乾杯。



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