荻原 浩 09


メリーゴーランド


2004/10/18

 荻原浩さんは、その良さにまだ気付いていない読者が多い作家の一人だ。などと書いている僕自身、拙サイト掲示板にて薦められなければその名を知ることはなかっただろう。その後数作を読んだものの、しばらく新たな作品を読まずにいた。

 本作の主人公は地方公務員の遠野啓一。毎日を何事もなく過ごすことが仕事だったはずなのに、超赤字テーマパークの立て直しを命じられた…。

 コミカルな描写でオブラートに包んではいるものの、田舎の役所の有様をあまりにもうまく捉えていて苦笑してしまった。僕も田舎で育ったからよくわかる。コネで入った職員のやる気のなさ。不要な公共工事で自然が消えていく。誰もがわかっているが、変わらない。変えようとしない。近くにできた遊園地が閉鎖されて久しい。

 だがしかし、である。僕は「民間」企業に勤務しているが、「役所」の現状を笑うことができるだろうか。「民間」の看板を掲げた企業の「役所」体質にどっぷりと浸かってはいないだろうか。啓一のように、組織のしがらみに抗い奔走したことがあるだろうか。

 役所の文化に染まり切っていた一人であった啓一が、与えられた無理難題に徐々に本気で没頭していく。連日の長時間残業で、愛する家族に後ろめたさを覚えながら。啓一の熱意に力強い援軍が集まってくる。僕が啓一を心から応援したくなったのは、自分自身が組織に染まり切っていることと無関係ではあるまい。結局うらやましいのだ。

 終盤、物語は思わぬ方向へ進んでいく。運命のいたずらとしか思えない、夫婦のすれ違い。啓一たちの純粋さと対照的な、権力者の醜さ。詳しくは書けないが、哀しくも美しいラストシーンに救われた気がする。つくづく荻原さんは憎い作家だ。

 小さな自治体から大都市まですべての地方公務員に。また国家公務員に。そして中小企業から巨大企業まですべての会社員に。本作は、この日本で働くすべての雇われ人に捧げるメッセージだ。日本というシステムに疑問を投げかけるという面もあるのだろうが、堅いことを考えずに共に笑い、共に怒ってみよう。



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