荻原 浩 10 | ||
僕たちの戦争 |
主人公が現代から過去へタイムスリーップ…という設定は決して目新しくはないだろう。では、現代と過去の間で二人が入れ替わるとしたらどうだろう。
享楽的に生きる今時の若者、尾島健太19歳。趣味のサーフィンに出かけ、大波に呑まれた彼が目覚めると、そこは戦時下の1944年だった…。「海の若鷲」を夢見る練習航空隊員、石庭吾一19歳。単独飛行訓練中に墜落した彼が目覚めると、そこは2001年だった…。
それぞれ正反対の価値観が支配する時代に飛ばされた健太と吾一。彼らが瓜二つであることが事態をややこしくする。健太は1944年の世界で吾一として、吾一は2001年の世界で健太として、それぞれ認識されるのだ。やがて意を決する二人。
名手荻原浩が、さてこの設定をどう料理するのか。今回も荻原さんらしいユーモアセンスが垣間見えるものの、彼らの姿はむしろ悲哀を誘う。コミカルに描くには、戦争というテーマは重すぎるのだから。それでも、あくまで二人の若者の青春記である点に救われる。
吾一の理解を超えるファッションに身を包んだ現代の若者たち。敵性語の看板に溢れた街。歴史書が突き付ける「敗戦」の二文字。それでも携帯を使いこなすほどに現代に適応していく吾一。だが、決して拭えない。健太の恋人ミナミを騙している後ろめたさ。そして「皇国」の力になれない後ろめたさ。たとえ敗戦が近いと知ってしまっても。
一方、戦時下の価値観に徐々に支配されていく健太。理不尽な暴力の洗礼を受けながら、要領よく立ち回る術を身につける。だが、訓練では仲間への対抗意識が芽生えていく。やがて訪れる終戦までの辛抱ではなかったのか。異なる時代に生きる二人は訴える。「皇国」の価値観はかくも強力で、人心掌握はかくも巧妙なのか。
こういう心情は、戦時下で実際に一つの価値観を叩き込まれた世代でないと理解はできないだろう。幸か不幸か、僕には真に理解できたとは言えない。その点は残念だ。
でも、これだけは言っておきたい。ミナミを幸せにしてあげなよ。