荻原 浩 15


押入れのちよ


2006/05/23

 今一押しの作家の一人、荻原浩さんの新刊は、初の短編集である。超大物を片付けたところで早速手に取る。ぞくりと切ない、9夜の物語。

 最初の作品「お母さまのロシアのスープ」は、平易な文章ながら重いテーマを突きつける、荻原さんならではの傑作。最後の一文に思わずぎゅっと目を瞑る。せめて母娘が平穏でありますように。続く「コール」は、悲しい設定に適度なユーモアを交えて仕上げた、これまた荻原さんならではの一編。僕はいわゆるド〇カ〇状態は経験がないが、難しいよねえ。

 格安物件に引っ越したらそこには少女の幽霊が…という表題作、「押入れのちよ」。明治生まれの少女は、辛い身の上とは対照的に、失業中のを恵太を導く一筋の光となる。しつこいようだが、またまた荻原さんならではの一編。短編でもさすがだ荻原浩。

 ところが、続く「老猫」は…ホラーのようなブラックジョークのような。うははははは、「殺意のレシピ」なんて笑うしかないぞこりゃ。厳選素材をこう料理するか。お笑い作家H野氏が悔しがるかも。ぶははははは、「介護の鬼」なんてもっと笑うしかないぞこりゃ。社会的テーマをこう料理するか。お笑い作家H野氏が地団駄踏んで悔しがるかも。

 しかし、お笑い作家H野氏が地団駄踏むどころかやけ酒に走りそうな作品が次に控えていた。「予期せぬ訪問者」というより「招かれざる客」か。訪問販売に捕まるとろくなことがないという典型例だ(違うって)。最初から一切応対しないに限る。

 残り2編は切ない系に戻る。「木下闇」は、妹の失踪の謎が明かされるサスペンスタッチの好編。15年間に及ぶかくれんぼは、ようやく終わった。見つからなかったはずだ。またしても荻原さんならではの「しんちゃんの自転車」で、初の短編集は幕となる。

 「お笑い系」4編を「切ない系」5編で挟んだ奇妙に味わい深い作品集である。荻原浩にお笑いの血が流れていたとは。どちらかの路線でまとめた方がよかったかも。



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