荻原 浩 18


サニーサイドエッグ


2007/08/10

 実に約8年ぶりとなる『ハードボイルド・エッグ』の続編であり、荻原浩作品としても初の続編である。フィリップ・マーロウを気どるが、どこかずれていて妙に律儀。愛すべきペット専門探偵(ではないと本人は主張するが)、最上が再登場である。

 今回は殺人事件は起きない。しかし、連続動物虐殺事件が物語に影を落とす。現実社会にも潜んでいる、不満のはけ口を弱者に求める人間たち。猫の写真で有名な写真家の岩合光昭氏は、いつしか撮影場所を詳細に明かさなくなったという。毒を与えに行く連中がいるからである。写真の公開さえもできない事態にならなければいいが。

 前作同様、序盤で最上の優しさにぐっときたところで本番である。和服を着た美しい女性の依頼は猫捜しだった。品種は愛猫家垂涎のロシアンブルー。ところが、ただの猫捜しのはずが、この美しい猫には重大な秘密が隠されていた…。

 依頼なのだから当然だが、必死の猫捜しの様子が実に興味深い。野良猫と人間の知恵比べ。最上が経験から培った捜査の極意。動物愛護主義者ではないと言いながら、見上げたポリシーとプロ意識ではないか。餌には困らないが、屋内に閉じ込められた飼い猫。生存競争は厳しいが、自由気ままな野良猫。どちらが幸せなのだろう。

 あらゆるエピソードがちゃんと繋がる結末は見事。これぞエンターテイメント。ただし、読みどころ満載なのはいいのだが、やや盛り込みすぎの感がある。例えば茜という少女の存在。彼女が抱える事情を物語に絡める必要はあったのだろうか。

 敵方が割とあっさりしているのも拍子抜けしたかな。最上が口八丁手八丁でうまくやり込めたということにしておくか。マーロウの真似は無理でも、たまには主人公らしく決めさせてあげよう。損得勘定で動く人間ばかりの世の中、最上の律儀さは貴重だ。

 前作を読んでいなくても支障はないが、読んでおいた方がより楽しめるし、最上というキャラクターがより好きになるだろう。是非シリーズ継続を。



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