荻原 浩 23 | ||
ひまわり事件 |
早くも届けられた荻原浩さんの新刊は、色々と考えさせられる。いつもながらの軽妙な筆致の裏に、深いテーマが隠されている。
隣接する有料老人ホーム「ひまわり苑」と「ひまわり幼稚園」。「ひまわり苑」の所長は理事長の義弟で、「ひまわり幼稚園」の園長は理事長の娘。県議選を控えた理事長の世間体のために始められた「園・苑一体化施策」が、事件の始まりだった。
老人と子供は、お互いに得体が知れない存在。園・苑一体化の下、園と苑を隔てる壁の一部が取り払われた。しかし、老人も子供も合同演芸会などさっぱり乗り気じゃない。すべてはマスコミにアピールしたい理事長の都合なのだから。
一方的な園・苑一体化施策をきっかけに、園と苑、それぞれの不満が燻り出す。晴也・伊梨亜・秀平・和樹の4人組に手を焼きつつ、子供を愛する和歌子は、園長の一方的な通告に何度も異を唱えるが、園長は一切耳を貸さない。子供のことなど考えず、親しか見ていない。大したことない怪我で大騒ぎする親も悪いのだが。
そして苑。変わり映えしないメニューに見合わない食費。契約条項を盾に取った冷酷な処遇。半ば諦めていた77歳の誠次たち入苑者だが、新参者の片岡が理路整然と苑の不正を訴え始める。所長一派は卑怯な手で潰そうとする。中年が見えてきた僕にも許し難い言葉。だが、片岡は虎視眈々と決行の日を待っていたのだ。
いよいよその日がやって来た。いつの間にか交流が生まれた老人と悪ガキが、どんな手段に打って出たかというと…。まさかこんな手とは。おろおろするばかりの経営陣に、読者の溜飲が下がるだろう。しかし、快哉を叫びたくなる一方、寂しさも漂う。自分の老後を考えると、本作に登場した老人たちの姿は他人事ではない。
本作は、事件から13年後に集まった元園児4人による回想という形で進む。園も苑も今はない。13年経っても利権者のやることは同じ。晴也たちがやろうとしていることに、意味があるのだろうか。少なくとも、何もしない者に笑う権利はない。数ある荻原作品の中でも一二を争う、読者に強く訴える作品と言えるだろう。