荻原 浩 29
	家族写真

　家族をテーマにした作品が多い荻原浩さんから、家族をテーマにした短編集が届けられた。『家族写真』というタイトルは表題作のタイトルだが、全編共通のタイトルでもある。

　「結婚しようよ」。妻に早くに先立たれた夫は自問する。自分のプロポーズが、彼女の夢を奪ったのではないか。娘を嫁に出した彼の新生活に幸あれ。「磯野波平を探して」。波平をカツオの祖父だと思っていたのは僕だけではあるまい。50歳は僕にとっても遠くない。年齢相応に生きればいい。でも、それが難しい。

　「肉村さん一家176kg」。BMI指数はセーフだが、メタボ基準はギリギリな僕も、油断をすれば内村さんになるだろう。そんな都合がいい基準、初めて聞いたぞ。「住宅見学会」。マイホームを夢見る妻が、家族を伴って実際に人が住んでいる家に見学にやってきた。そこで見た現実とは。家はあくまで箱に過ぎない。

　「プラスチック・ファミリー」。このタイトルには二重の意味がある。結婚するやつは馬鹿だ。しかし、51歳独身の男は裏腹な行動に出る。気持ち悪いと切り捨てるのは簡単だが、物悲しい。「しりとりの、り」。悪い想像は外れたが、僕も彼のようにならないとは限らない。20p程度と短いが、ほろりとさせられる。いい家族じゃないですか。

　最後の表題作「家族写真」。町の写真館が姿を消しつつある昨今。郷里で写真館を営む父が倒れた。フリーカメラマンの助手として働く長男。地元に残る妹。音楽の道を断念した彼との将来に悩む姉。それぞれ父を、写真館を案じていた。デジタル化が進み、プロとアマの技術の差が縮まろうとも、写真の本質は変わらない。そう思いたい。

　少子化どころか生涯独身という人がどんどん増える時代である。それも1つの選択だろう。確かに、1人が気楽という面はある。結婚してみて、些細な衝突は日常茶飯事だ。それでも、せっかく築いた家庭は大切にしたい。

　何より、生んで育ててくれた両親に感謝を。