岡嶋二人 05


開けっぱなしの密室


2006/08/06

 岡嶋二人が残した作品群に、短編集は少ない。ただでさえ短編集は見落とされがちである。しかし、再読してみて思う。短編を書かせても岡嶋二人は岡嶋二人だった。

 「罠の中の七面鳥」は、男女の独白と会話で構成されるという趣向の一編。ああ騙して騙されて、駆け引きの末に潮時を見誤った男女の悲哀。用意していたシナリオが、こんな形で転用される皮肉。不思議と湿っぽくはない、むしろ爽快な好編。

 短編ネタとしてはやや込み入りすぎか、「サイドシートに赤いリボン」。その執念を違う方向に向けられなかったのか。それぞれ非があるわけで、何だかすっきりしないな。結論は、仕事熱心もほどほどに、そして交通安全に努めましょうということか。え、違う?

 最初に読んだとき強く印象に残った「危険がレモンパイ」。今読んでこそリアリティがある一編ではないだろうか。これを今どきの若者像と決め付けるのは乱暴だが、無表情の奥で何を考えているのか、戦慄と薄ら寒さを覚えずにはいられない。

 「がんじがらめ」とはよく言ったもので、ありがちなパターンも一ひねりすればこの斬新さ。素人が騙し切れるほど警察は甘くなかったねえ。

 まんまと罠にかけたはずが、「火をつけて、気をつけて」。古い映画に関するトリビアを、彼は知らなかった。僕も知らなかった。DVD時代の読者にはピンとこないかも。

 最後の表題作「開けっぱなしの密室」は、長編に匹敵する岡嶋二人ならではの傑作。本格というジャンルは、現場を密室にする必然性がしばしば議論になる。そして有耶無耶に終わる。では、現場を密室にしない必然性とは何だろうか? 誰でも納得する合理的理由があるのである。それ故に足が付いたわけで。伏線の巧みさといい、言うことなし。

 それにしても、興味をそそるうまいタイトルをつけるよねえ。



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