岡嶋二人 13


ビッグゲーム


2007/01/30

 僕は横浜F・マリノスを日本中追いかけるおばかさんを自認しているが、プロ野球は数えるほどしか生で観戦したことがない。野球にはひいきのチームがないというのも理由の一つだが、サッカーという競技の攻守が目まぐるしく替わるところが好きなのだと思う。

 野球の大きな特徴は、攻撃と守備が明確に分けられているところにある。サッカーと違い、打者は誰にも邪魔されずにバットを振れる(送りバントはさて置き)。打者と投手の一対一の勝負。いや、投手と捕手、バッテリーとの一対二の勝負と言うべきだろう。投手は女房役のサインを信頼して投球するのだ。ところが、そのサインが盗まれていたら?

 サインを盗むという「スパイ」行為の疑惑報道は一度や二度ではない。しかし、非合法活動もここまで極めればどうですか。野村ID野球(古いか)も真っ青。刊行当時を考えれば、ここまで大胆な設定をした岡嶋二人はすごい。今読んでもすごい。というより呆れた。

 野球に限らず、対戦相手の分析は常識だ。サインを盗むまではしなくても、投手の癖を見抜くくらいはするだろう。門田博光は、対戦する投手の癖をノートに記していたという。いかに敵を知るかが勝負の本質とも言える。それにしたってたかがスポーツである。

 命を懸けるほどのものではあるまい。情報戦に明け暮れる非合法部隊が絡む殺人事件。なんともはや、救いようのない殺伐とした話ではないか。同じ穴の狢(むじな)とはこういうことを言う。ネタは文句なしなのに、これほどまでにわくわくしないのは珍しい。

 情報戦が勝負を左右することもあるだろう。しかし、加熱するのはあくまでグラウンド上だけであってほしいものである。本作を読み終えて、そう思ったのだった。

 昨年のW杯ドイツ大会のあるエピソードを思い出す。準々決勝のドイツ対アルゼンチン戦は、GKレーマンの活躍でドイツがPK戦を制し、準決勝に進出した。レーマンのメモには、アルゼンチンの選手がPKを蹴るときの癖が、詳細に記されていたという。



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