岡嶋二人 19


ダブルダウン


2007/01/18

 文庫版解説によると、井上夢人さんは著書『おかしな二人』の中で、本作『ダブルダウン』を「最低の作品」とまで述べているという。人気作家なら、締め切りに追われて不本意な出来のまま世に出た作品もあるだろう。だが、プロの作家が本音を公言するべきではないと個人的には思う。なぜなら、読者に欠陥商品を売っていることになるのだから。

 対戦中の二人のボクサーが、青酸中毒で相次いで倒れ、死亡した。衆人環視の二重殺人トリックは? 二転三転する展開は読者を惹きつけるだろう。しかし、敢えて言う。ボクシングをテーマにした作品としては、『タイトルマッチ』の方がお薦めできる。

 「最低の作品」とまでは思わない。岡嶋二人らしさは随所に発揮されている。しかし、同時に井上夢人さんが不本意に思う気持ちもよくわかる。一言で述べると「ちぐはぐ」なのである。「登場人物の行動が行き当たりばったり」とはおっしゃる通り…。

 支障がない程度に述べると、どうして対戦中のボクサーを殺すという危険極まりない事態に至ってしまったのだ??? そもそもの発端(もちろん大罪ですよ)を考えると、ずいぶん壮大な計画に発展したものである。一見用意周到なようで、合理性には欠ける。

 展開が多少強引なのはまあ置いておこう。僕が思うに、本作の弱い点は、第一にボクシングがテーマである必然性がないことではないか。一対一で競うスポーツであれば、相撲、柔道、剣道、レスリングと何でもいい。トリックの考えやすさからボクシングにした、というのはうがちすぎか。第二に、スポーツをテーマにしながら試合のシーンがほとんどない。

 とまあ、批判ばかりを書き連ねてきたが、井上さん曰く「穴を掘って埋めてしまいたいような作品」である本作は、決してつまらなくはない。多忙を極めた当時に、十分に磨き上げる時間がなかったことが残念である。岡嶋二人も人間だったということだ。

 これから岡嶋二人作品を読み始める読者は、本作を最初の作品にしない方がいい。もし最初に本作を読んだとしても、是非他の作品も読んでみてほしい。



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