岡嶋二人 22


殺人! ザ・東京ドーム


2006/10/19

 巨人戦のチケットがプラチナペーパーと呼ばれたのは今や昔。空席の目立つスタンド。最低を更新し続ける視聴率。アンチ巨人(というか読売)を自認する僕だが、近年の惨状には悪口を言う気もしない。影響力が大きいからこそ憎たらしいと思うわけで。

 本作は、東京ドーム完成に合わせて刊行された、いわば企画ものである。それにしたってタイトルはどうにかならなかったのだろうか。巨人戦といえば五万六〇〇〇人の観衆が入るのが当たり前という前提で書かれていることにまず触れておきたい。

 密かに日本に持ち込まれた南米産の猛毒クラーレが、ある男の手に渡る。巨人対阪神戦に大観衆五万六〇〇〇人が沸く東京ドームで、この毒を塗った矢による殺人事件が発生した。その巧妙な手口に目撃者は皆無。捜査陣をあざ笑うように凶行は続く…。

 犯人が誰か、そしてどんな手口かは読者には最初からわかっているのがポイント。岡嶋二人としては珍しい純然たるサスペンスである。クライマックスに向けて関係者たちがどのように絡んでいくのかが読みどころ。緊張感のないタイトルとは裏腹の緊張感。

 現代の目で見て、犯人像をステレオタイプに感じるのはやむなしか。幸か不幸か、この手の犯人像には慣れっこになった。しかし、〇〇という言葉を名前と勘違いするのは無理があるような…。思いを寄せる人の言葉は正直なのだった。クラーレが犯人に渡るきっかけを作った男の身勝手さにも苦笑した。こんな形で計画がばれるとは、好事魔多し。

 野球にしろサッカーにしろ、ドーム型のスタジアムは広いようで圧迫感を感じるものである。閉鎖空間だからこそ、いやがうえにも高まる緊張感。日本最初のドーム球場に着目し、なおかつ企画倒れに終わっていないのはさすが岡嶋二人。

 『殺人! ザ・日産スタジアム』を書いてもらえるくらい観客が集まればいいんだけど。ドームじゃないからだめ? あ、事件が起きろって意味じゃないですよ。



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