奥田英朗 13


ララピポ


2005/10/05

 最近、書店の棚にはいわゆる「勝ち組」の人たちの著作が並ぶ。奴らに一円たりとも印税払うもんかと思う心理には、やっかみが多分に含まれているに違いない。「勝ち組」特設コーナーをスルーして、いつものように文芸書のコーナーへ向かう僕。

 その本は、見慣れた棚の中で異彩を放っていた。黒地にピンクのキラ文字といういかがわしい装丁。鍵穴から見えるものは男と女の…。帯には「いや〜ん、お下劣。」の文字。しかし、何より奇妙なのはタイトル。ラ・ラ・ピ・ポ???

 本作には勝ち組なんていない。登場するのは六者六様の負け組たち。しかし、勝ち組だろうが負け組だろうが…性欲からは逃れられないのである。

 お下劣はお下劣だが、今どき顔をしかめるほどでもあるまい。開けっぴろげに描写されているので、どちらかというと拍子抜けしたかな。かなりブラックなはずのネタも、壮絶なはずの人生も、適度なユーモアを交えて重さを感じさせないが、僕は本作を帯に書いてあるような「最新爆笑小説」とは感じなかった。実はこんな真面目な本はないかも。

 負け組たちが日々性欲の処理に躍起になる様子(詳しくは読んでください)は、笑いよりも悲哀を誘う。面白おかしい描写ながら、人間という動物の本能を鋭く突いてはいないだろうか…なーんて鹿爪らしい言い方は本作には相応しくない。描写は至ってストレート、でも奥が深いんだよね。『ララピポ』というタイトルの意味は最後に明らかになる。

 作家として十分な地位があるのに、こういう作品を正面切って書ける奥田さんって偉いと思う。不倫小説を高尚な文学だとうそぶく先生方よりずっと誠実だ。性の話なんていかがわしいのが当たり前。六人の負け組たちに、奥田さんらしい優しい眼差しが向けられている点も注目だ。彼らのような心理は誰にでもある。もちろん「勝ち組」にも。

 読み終えると、何だか心がすっと軽くなった気がした。紳士淑女の皆様こそ、騙されたと思って読んでみよう。奥田さん、やっぱりあなた最高だわ。



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