奥田英朗 25


沈黙の町で


2013/02/13

 タイムリーと言っては不謹慎か。いや、この問題は何度報じられても繰り返し発生してきた。これからも発生するだろうし、報じられているのは氷山の一角だろう。奥田英朗さんの新刊は、簡単に述べると「いじめ」がテーマだ。覚悟して手に取った。

 閑静な地方都市で、中学2年生の男子生徒が、部室の屋上から転落死した。事故か、自殺か、他殺か…。ほどなく、死亡した生徒がいじめを受けていたことが発覚。直前に一緒に屋上にいた同級生4人のうち、2人は傷害容疑で逮捕、2人は補導された。

 加害生徒と被害生徒。その両親。教師。新聞記者。警察官。検察官。本作は、1人の中学生の死を巡る、様々な関係者の視点で描かれている。彼の死後も、一見いつも通りな町。しかし、そこには静かに静かに波紋が広がっていたのだった。

 逮捕か補導かを分けたのは年齢である。14歳以上は刑事罰を問われるが、13歳以下は問われない。我が子の逮捕という現実に動転しつつも、年齢による処遇の違いという理不尽さに怒りすら覚える母親たち。そこに死んだ生徒への哀悼はない。

 やがて4人とも釈放されるが、逮捕・補導されたことは近所中に知れ渡り、無数の好奇の目が向けられている。警察や検察からの呼び出しは続く。家庭事情は様々だが、母親たちに共通しているのは、我が子かわいさ。悪いのはうちの子じゃない。

 何より、我が子を失った母の苦痛。学校側を通じて数々の要求を突きつけるのは、ただ息子の死の真相を知りたいから。それなのに…。不満を露にする加害者側と、両者の板挟みになる学校側。若き新聞記者もまた、どう伝えるべきか苦悩する。

 警察や検察は、少年を相手にすることの難しさを痛感していた。加害生徒たちは、被害生徒にもいじめられる原因があると、死ぬ前は思っていた。その瞬間、まだ幼い彼らの頭は真っ白になったに違いない。彼らは正確に伝える言葉を持っていない。

 描写は終始淡々としている。誰も救われないし、何も解決しない。結末は中途半端に感じるかもしれない。だが、実は理に適っている。第三者の興味が薄れても、被害者側と加害者側、双方にとって、永遠に終わりはないのだから。



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