恩田 陸 02


球形の季節


2005/08/27

 こういう心情はわかる気がする。

 僕は岩手県沿岸部の田舎町に生まれ育ったが、偶然にも本作の舞台も岩手県。内陸部に位置するというI市と、その中心部の谷津という町は架空のものだが、県庁所在地の盛岡市以外は似たような空気が流れていると思っていい。

 変わり映えのない街並みと、毎日学校に通うだけの変化に乏しい日常。卒業後、多くの者が東京などの都市部へ出て行く。一方、そのまま田舎町に残る者も少なくない。都会に出て行った者の一部も、やがて田舎に帰ってくる。僕はこっちに定着しそうだが。

 四つの高校が居並ぶ岩手県I市に流れる奇妙な噂。その出所を追跡調査する、「地歴研」の面々。やがて噂は本当になる。町にはおまじないが流行し、新たな噂が流れる…。退屈な日常、管理された学校。眠った町に何かが起きようとしていた。

 噂の追跡調査の過程はもちろん興味深いのだが、僕としては「地歴研」の面々を始めとした高校生たちが故郷に抱く心情に注目したい。牧歌的な雰囲気が漂う町に、ある者は憎悪に近い感情を抱く。ある者はそれが普通だと思っている。故郷への思いはそれぞれだが、谷津という町の持つある種の「力」が、彼らを調査へと駆り立てる。

 普通であることを嫌う。こういう潔癖さが、かつて自分にもあったのだろうか。大人になりたくないわけではない。むしろ早くなりたい。だが、大人の敷いたレールをたどるのは真っ平。確かに、大人になるとは妥協を覚えるということである。一方、彼の思想には現実逃避という側面もある。あなたはどちらに魅力を感じるか。僕自身はみのりに近いなあ。

 故郷は退屈であると同時に落ち着くものだ。帰省する度に思う。都会で毎日些細なことに神経を尖らせて何をやっているんだろうと。僕は本作を、故郷の愛おしさ、日常の愛おしさを再発見する作品と思うことにした。外から見て、初めてわかるものだ。



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