恩田 陸 08


月の裏側


2004/03/02

 たまには趣向を変えて、本作に相応しいBGMを紹介してみよう。

 『狂気』という"PINK FLOYD"のアルバムをご存知だろうか。なぜこんな邦題が付けられたのかわからないが、原題は"THE DARK SIDE OF THE MOON"である。そう、本作のタイトルと同じ。1973年に発表されたこの作品は、音楽史上に残る大ベストセラーアルバムなのだが、初めて聴いたときの感想は、「…何これ?」であった。

 正直なところ、今でもこのアルバムの価値はわかっていないし、滅多に聴くことはないが、ある曲の形容しがたい不気味なメロディだけは耳に残っていた。本作を読み進めるうちに、あの単調なメロディが甦った。本作は、正にあの感覚を具現化したものであるように思えてきたのだ。その曲は"ON THE RUN"という。

 "YMO"というグループ名を聞いたことくらいはあるかもしれないが、『BGM』というアルバムはご存知だろうか。「テクノポリス」「ライディーン」などのヒット曲で人気絶頂にあった彼らだが、路線をがらりと変えたこのアルバムは多くのファンを切ってしまった。実際、リアルタイムには聴いていない僕もかなりがっかりした記憶がある。

 正直なところ、今でもこのアルバムは好きになれない。YMO好きの僕でも滅多に聞くことはないが、ラストを飾る曲の形容しがたい不気味なメロディだけは耳に残っていた。本作を読み進めるうちに、あの迫り来るようなメロディが甦った。本作は、正にあの感覚を具現化したものであるように思えてきたのだ。その曲は"LOOM"という。

 自己満足の文章になってしまい申し訳ないが、興味のある方はレンタル店を当たってみよう。本作に描かれた「静かに忍び寄る」ような緊張感に、実にうまくマッチしていると思うからだ。この2曲のためだけに高いアルバムを買うことはないし、その価値もないが、本作を読む価値、買う価値は確実にある。

 ところで、解説で触れているある先行するSF作品とは…あのことだろうか? 確かに観たことがあるようなないような気はする。そういう点では「郷愁」かもしれない。 



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