恩田 陸 19


ドミノ


2004/02/16

 いきなり話が逸れるが、僕はドリフ世代である(ただし荒井注時代は知らない)。毎週土曜の夜8時が楽しみでしかたなかった。伝説の番組「8時だヨ!全員集合」が僕らの世代に与えた影響は計り知れない。何が僕らを惹き付けていたのだろう。

 僕なりに当時の記憶を掘り起こすと、連鎖反応の妙に尽きるのではないか。例えば、加藤茶がくしゃみをすると床が抜けたり金だらいに直撃されたりする。ひげダンスや夫婦コントなど、番組後半からも多くの名作コントが生まれたが、やはりあの番組のメインは前半の大掛かりなコントにあると思うのだ。

 どうしてこんなことを書いたのかというと、本作には「8時だヨ!全員集合」に通じるスピリットがあると感じたからである。本作もまた、連鎖反応の妙に支えられているのだ。

 これほどまでにすべてのシーンに無駄がない作品を読んだことがない。あらゆるシーンは連鎖反応的に次のシーンに繋がっていく。不要な人物は誰一人いない。逆に言えば主人公は不在。誰もが一枚のドミノ。どのドミノが欠けても、流れは止まってしまうのだ。

 ドミノ倒し世界記録に挑戦! などという企画をテレビで見かけるときがある。趣向の数々に感心せずにはいられないが、常に共通している点がある。第一に、スタート地点は必ず一つ。一枚のドミノを倒すことから始まる。第二に、本線から分岐して色々な仕掛けが作動するが、一つ一つの仕掛けはそれ自体で完結してしまう。

 本作はどうか。言うなれば、多数のスタート地点が存在するドミノ倒しだ。また、それぞれの仕掛けは必ず次の仕掛けを生む。多くの流れが分岐したり合流したりを繰り返しながら、最後には一つの大きな流れとなっていく。

 ドリフの話だかドミノの話だかさっぱりまとまらなくなったが、本作のフィニッシュは完璧だ。くらだない文章はここまでにしておこう。何が言いたかったんだ僕は。

 驚くべきは、これもまた恩田陸という作家の引き出しの一つでしかないということである。恩田陸を知らないあなたも、無心になってドミノの流れに身を委ねてみよう。



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