恩田 陸 52


ブラザー・サン シスター・ムーン


2009/02/01

 恩田陸さんの書き下ろし最新刊は、本文180pと単行本にするにはいささか短い。青春小説の新たなスタンダードナンバー誕生! と帯に書かれているが。

 高校の同級生で、東京の同じ大学に進んだ楡崎綾音、戸崎衛、箱崎一。友達以上恋人未満、つかず離れずの付き合いを続けていた3人が、交代で語り部を務め、青春時代を振り返るという趣向である。それぞれの話に、他の2人はあまり絡まない。

 第一部「あいつと私」。ぐだぐだと御託を並べた末に、現在は小説家になっていることを明かす綾音。学生時代は読書系のサークルに所属していたが、書きたいという衝動に素直になれず、口に出すのもはばかられた。単にひねくれているような…。

 第二部「青い花」。ベースを弾く戸崎は、プロを輩出しているジャズ研究会に飛び込むが、体育会並のレギュラーバンド争いが待っていた。戸崎は努力の末にレギュラーバンドに上り詰めるが、彼の醒めた部分はきっちりと就職を視野に入れていた。

 第三部「陽のあたる場所」。シネマ研究会に所属していた箱崎は、いつも一歩引いていて、自分で監督をすることはなかった。しかし、金融機関勤務を経て、今は映画監督として取材を受けている。相手のライターは同じサークルの後輩だという。

 3人ともそれぞれ才能がありながら、世間を、自分を、醒めた目で見ている点が共通している。綾音と箱崎はプロになり、戸崎はあっさりと終止符を打ったが、プロになりたくてもなれない多くの人からすれば、結局才能がすべてなのかと言いたくもなる。

 箱崎の話の中で、『イカ天』とか『エビ天』とか懐かしい番組名が出てきたり、「テーマは何ですか」「この映画に込めた思いは何ですか」とかいう決まり文句にぼやくところは面白い。小説でもよくある質問だよなあ。綾音なら何と答えるか。

 心に訴えるような作品ではないので、感動したい読者にはお薦めしません。



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