恩田 陸 55


六月の夜と昼のあわいに


2009/07/13

 出版社は「新境地」という3文字を安易に帯に使う。著者本人が言ったわけではないのだから、「新境地」の3文字を見かけても差し引いて考えなければならない。

 結論から言うと、これは新境地でも何でもない。いつもの恩田作品だ。もちろんそれが悪いということはない。そして、いつも以上に評価に困る難物だ。

 全10編からなる短編集だが、各編冒頭に新鋭画家による絵と、仏文学者杉本秀太郎氏による序詞が挿入されている。僕の乏しい想像力では、内容との繋がりはわからない。どこにも解説はない。画家の名は1人も知らないし、杉本秀太郎氏も知らない。

 一言で言えば…一言では言えないのだが…幻想譚なのか。前半の作品は、文章が難解ということはないのだが、話があっちへ飛んだりこっちへ飛んだり、正直かなり読みにくい。起承転結がないのが困りもので、小説というより詩に近いような。

 そして6編目、唯一オチがある「窯変・田久保順子」。唐突にこんなブラックユーモアをぶつけてくるとは。唯一理解できた作品ではあるが、悪ふざけが過ぎませんか恩田先生。オチは容易に読めた。現実にも後を絶たないだけに、笑えるかこんなもん。

 そして残りの4編。ホラータッチの「夜を遡る」は映像化すれば面白いかもしれない。サイコサスペンスタッチの「翳りゆく部屋」は嫌な後味が残る。「コンパートメントにて」は鉄道ミステリー…違うか。最後の「Interchange」で前半のような作風に戻ってしまう。

 それにしても「窯変・田久保順子」だけがかなり浮いている。これがなかったら本作は僕に何の記憶も残さなかったに違いないが。これもまた恩田流なのだろうか。

 恩田さんらしい不条理な作品集ではあるものの、一般読者はもちろん、恩田ファンにも攻略は難しいのではないか。タイトルにある「あわい」を漢字で表記すると「間」である。行間を読み取る読解力がなければ、本作の価値はわからないのかもしれない。



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