小野不由美 26


くらのかみ


2003/08/11

 「宴の支度は整いました」というどこかで見かけたフレーズ。講談社の新レーベル、かつて子どもだったあなたと少年少女のための"ミステリーランド"のスタートである。

 小野不由美さんの久しぶりの新刊は、そのミステリーランドの第一回ラインナップの一冊である。どことなく懐かしさが漂う装丁。字は大きく、すべての漢字にルビが入る。そう、少年時代に手に取った本はこんな感じだった…って僕はほとんど本を読んでいなかったのだが。でも、雰囲気は十分に伝わってくる。

 古い豪壮な屋敷に、後継者選びのため親族一同が集められた。そこで起きた事件。謎を解くべく、少年探偵団が結成された。しかしその中に、座敷童子が紛れ込んでいた…。

 盆や正月になると本家に親戚一同が集まる。あれこれ準備に忙しい大人たち。自然と子どもたち同士が集まり、仲良く遊ぶ。そう、本作の素晴らしさはそんな懐かしい記憶を呼び起こすところにある。僕自身、本家に集まったいとこたちとよく遊んだものだ。実家はもちろん大切だが、本家の思い出も同じくらい大切なもの。

 座敷童子が紛れ込んだ少年探偵団が、秘密の本部に集まって作戦を練り、推理する。その真剣ぶりが、読者には微笑ましく思える。ここにあるのは、懐かしいと同時に現代社会では失われつつある何か。例えば冒険心。例えば結束。

 推理ものとしての面白さは言うまでもない。動機の面からの検証に始まり、最後に鍵を握る問題に行き着く。誰が座敷童子なのか? そこに至るまでの綿密な作戦と推理力には頭が下がる。ファンタジーの要素を違和感なく取り込み、推理ものとして成立させる。こうした手腕は小野さんならではのもの。

 子どもたちの根底にあるのが、自分の親を、そして家を大切にする心である点に是非注目したい。これは僕の私見だが、本作は遠く離れた「家」というものを意識させる作品だと思う。第一回のラインナップにこれほど相応しい作品はない。

 季節はまさに盆。夏休み。かつての子どもたちこそ読むべき一作だ。



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