乙一 03 | ||
石ノ目 |
綾辻行人さんは言う。やはり彼はある種の天才(あるいは天然か)なのだろう、と。本作の著者の言葉を読んでみる。なるほど、天然かもしれない。ペンネームが〇〇じゃ売れないだろうが。そんな天然作家のホラー短編集という触れ込みの本作、どちらかというとファンタジーという気がするが…ジャンル分けなどどうでもいい。本作は傑作なんだから。
表題作「石ノ目」が、唯一ホラーらしいホラーか。古い言い伝えが残る山。「石ノ目様にあったら、目を見てはいけない。見ると石になってしまう」と。そんな山に、友人と二人で登ることにした私。幼い頃消息を絶った、母を探すために…。じわじわと高まる緊張感が見事。この閉ざされた舞台設定に、懐かしさと同時に本格の香りを感じたのは僕だけだろうか。詳しくは書けない。ラストには、切ないどんでん返しが待っている。
「はじめ」。ホラー界の大物中の大物、スティーブン・キング氏が『スタンド・バイ・ミー』を発表したとき、近年稀に見る青春小説の傑作と評されたそうである。そして、ホラー界の若き俊英と目される乙一氏のこの作品。言い切ってしまおう。これまた青春小説の傑作だ。ラストの一文が爽やかな余韻を残す。
「BLUE」。支障がない程度に言おう。ぬいぐるみのお話である。この作品が成功している理由は、人形ではなくぬいぐるみだからだと思う。だって、人形は怖いのだ。不気味なのだ。ホラーなんだから怖くていいだろうと言われそうだが、とにかく人形じゃだめなのだ。ぬいぐるみは見る者に温かい印象を与える。だからこんな作品が生まれるんだ。
「平面いぬ。」つい最近、ドリンク剤のCMに平面ガエルのピョン吉が出演(?)しているのを見て懐かしく思ったものだが、乙一氏の世代は知らないだろうな。それはさて置き、平面いぬ君はピョン吉のように言葉は話せない。しかし、感情があって意思表示もする。憎めない奴じゃないか。かなり無茶なはずの設定も気にならない。
ホラーという枠にはまらないこの才能。乙一氏はまだまだネタを隠し持っている。