乙一 05

きみにしか聞こえない

CALLING YOU

2003/12/14

 "切ない"系と称される角川スニーカー文庫の乙一作品だが、本作に関する限り"痛い"系と称するのが適切ではないだろうか。ああ痛い…。なお、本作収録作品中「華歌」を除く2編が『失はれる物語』に再収録されている。

 「Calling You」は、あ〜〜〜〜〜何て残酷なんだ〜〜〜〜〜! と読み終えて叫びたくなった。薄々予想していたとはいえ…。

 友達がいないからケータイを持っていないという主人公の少女。そんな彼女の心に鳴り響く着信音。同じくさみしさを抱える少年からのSOSだった。現代的テーマの料理法もさることながら、ケータイが手放せない現代人へのアンチテーゼのように感じられる、というのは深読みしすぎだろうか。ここまで切実に、伝えたいものがあるだろうか。

 「傷―KIZ/KIDS―」は、い、痛え〜〜〜〜〜! 本当に痛いよ…。

 ある特殊な能力を持つ少年、アサト。どんな能力かは触れないが、なぜ彼がここまでしなければならない? 物語中盤のある裏切り。彼がひた隠しにしていた真実。文字通り、身を切られるような作品。そんな彼に、苦しみを分かち合う理解者がいたことが救いだ。この世の中は、捨てたものじゃないと思いたい。

 ラストを飾る「華歌」は、"切ない"系の集大成的作品だ。『失はれる物語』から漏れたことは残念。辛い事故を経て入院していた主人公が見つけた、不思議な花。花を守るため、同室の患者たちと一致団結するのは作中数少ない微笑ましいシーンだ。花に込められた思いという謎の要素を、心に傷を負った主人公が自己を見つめ直す物語と融合させた、美しくも哀しい傑作。人を思うということとは何か。

 むう、すっかりしんみりしていたところで、最後にこんな罠が用意されているとは。



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