乙一 11


ZOO


2003/06/29

 何なんだこれは…と帯には書かれている。本作を、いや乙一という作家を的確かつ端的に表した言葉と言えるだろう。ホラーの俊英としてデビューした乙一氏だが、今ではジャンル分け不能。枠にはめられることを拒み、読者を、評論家を煙に巻く乙一氏。

 ある時はホラーの作家。映像化はご免被りたい描写も、彼に書かせればどこか詩的で耽美的だ。綾辻行人のように。「冷たい森の白い家」における死体たち。「ZOO」における腐敗が進む死体。一方、「SEVEN ROOMS」ではこうした描写が純粋に恐怖を煽る道具として用いられている。極限状態で下された決断。傑作だ。

 ある時は切なく迫る作家。命の尊さを知りたいなら「陽だまりの詩」を読むといい。家族の意味を知りたいなら「SO-far そ・ふぁー」を読むといい。露骨なお涙ちょうだい路線ではないから、素直に受け止められる。すっと染みる。

 ある時は社会派の作家。「神の言葉」の主人公のような心理は誰にでもわかるだろう。誰でも組織から、しがらみから、逃げたい衝動に駆られたことがあるだろう。これぞ現代人の心の闇。社会派と言わずして何と言おうか。

 ある時は本格の作家。「Closet」における巧みなミスリード、推理の応酬、どんでん返し。本格と言わずして何と言おうか。だんだん無理が出てきたな…。

 ある時は…「血液を探せ!」はギャグかこれ。どくどく血が流れる描写をここまでコミカルにしてしまう作家はなかなかいない。しかも本格風味だから手に負えない。「落ちる飛行機の中で」ここまで緊張感のない展開をしてしまう作家はなかなかいない。しかもラストでしんみりさせるから手に負えない。

 しかしてその実体は…読者各自で判断してくださいな。彼の作風はこれまでの作品からある程度把握していたつもりだった。そう、あくまで「ある程度」だったのだ。

 「カザリとヨーコ」は嫌いだ。こういう設定はいただけない。



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