乙一 15 | ||
The Book |
jojo's bizarre adventure 4th another day |
1986年に『ジョジョの奇妙な冒険』の連載が始まった当時、僕はジャンプを愛読していた。第一部「ジョナサン・ジョースター」編、第二部「ジョセフ・ジョースター」編と面白く読んでいた。第三部「空条承太郎」編に入ると「幽波紋(スタンド)」という設定が登場。同時に完結までの連載期間が長期化した。僕は第三部途中でジャンプを買うのをやめた。
本作は第四部「東方仗助」編に基づく乙一さんのオリジナル小説である。第四部については断片的にしか読んでいないが、十分に楽しめた。最低限「スタンド」という概念を知っていれば問題ない。しかし、まったくの予備知識なしでは楽しめないだろう。
東方仗助、虹村億泰、広瀬康一、岸辺露伴といった原作のレギュラー人物たちを文章で活写するには、原作への深い愛着が不可欠。原作には登場しないオリジナルの人物を、いかに世界観を壊すことなく絡ませるか。原作への愛着が深ければ深いほど困難な作業に違いない。実際、大量の原稿をボツにした末にようやく完成したという。
タイトルの【The Book】とは、仗助たちと戦う本作の中心人物のスタンド名でもある。彼が自ら【The Book】と命名するのはクライマックスになってから。原作者の荒木飛呂彦さんが洋楽にちなんだネーミングを好んでするのは有名だが、敢えてストレートかつシンプルなネーミングで勝負したのか。しかし、何より注目されるのはその能力である。
原作シリーズには多彩なスタンド使いが登場するが、それぞれ弱点もあり決して万能ではない。【The Book】もまた然り。乙一さんオリジナルのスタンドの恐るべき能力が解明されると、不可解な死の状況もすべて説明できる。これはジョジョの世界だから成立し得る本格だ。単なるノベライズに留まらない、ミステリーとしての緻密な構成が素晴らしい。
最終決戦こそ派手に映るが、本作の読みどころは頭脳戦にある。剛のスタンドを操る仗助や億泰が、知恵を絞って犯人捜しをする。【The Book】と直接対峙することはないが、柔のスタンドを操る露伴がその正体に迫る。伝統的にバトルが重視されるジャンプにあって、『ジョジョ』の個性は際立っていることを、本作は改めて教えてくれる。