Overseas Ellery Queen

フランス白粉の謎

The French Powder Mystery

2006/03/06

 本作の「中口上と挑戦」には以下のように述べられている。推理小説の愛好者の間には、盲目的直覚の力をかりて、犯人を《当て》ようと努力する傾向が大いにある、と。

 僕は、正に「盲目的直覚」、要するに勘で犯人の目星をつけた。結果、犯人については当たっていたわけだが、自慢にはならない。どうしてその人物だけが犯人たり得るのか。エラリーによる理路整然とした論理に、やっぱり唸らされたのである。

 ニューヨーク五番街の大百貨店のショーウィンドウでは、壁にはめこまれた電動寝台の実演が行われようとしていた。ところが、寝台が前方にせり出て水平の位置に止まると、着衣の二箇所に血がべっとりとついた女の死体がころがり落ちてきた…。

 という、実に芝居がかったオープニングである。ミステリーの中でも、とりわけ本格というジャンルは、読者を意識した、いわば演出のための演出がしばしば目に付く。もちろん、それが必ずしも悪いわけではない。しかし、犯人がこんなところに死体を入れておいたのには合理的な理由があるのである。本作には演出のための演出はない。

 2作目になるとエラリーは公然と捜査に関わっており、父であるリチャード・クイーン警視の部下に命令までしている。尋問のやり方からして刑事顔負けだし…。エラリーという探偵役は、確固たる結論に至るまで自らの考えを開示しないらしい。推理作家の性なのか。なるほど、彼はこれを確かめようとしていたのか。そして読者は膝を打つ。

 事件の背後には麻薬密売組織が暗躍していた。タイトルにある「白粉」とは、ヘロインのことでもあり、そして…。一味が連絡に用いた暗号の工夫には、ネット時代にはない味わいがある。暗号のための暗号ではないのがまたいい。苦心の末にエラリーに解かれてしまうのだが、暗号に関しては原語の方が楽しめたかも…って、ネタばれかな。

 決して難しくなく、それでいて水も漏らさぬ美しいロジックが披露された後のこの結末。完璧すぎるロジックは、ある意味で罪なのかもしれない。



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