Overseas Ellery Queen | ||
オランダ靴の謎 |
The Dutch Shoe Mystery |
犯人を指名するのは、読者にとっては、簡単なはずである。私は、ことさらにあえて、簡単であるという。実際には、しかし、簡単ではない。
と、「読者への挑戦状」には書かれているが、実際のところ、簡単に読者に看破されるようでは商売上がったりというもの。解くのは難しいが、説明を読めば必ず納得できるだろう。それが上記の一文が言いたいことではないだろうか。
オランダ記念病院の手術台にのせられた百万長者の老婦人は、白布をめくると、すでに針金で絞殺されていた。犯人は病院の中にいるのか? 捜査が膠着する中、第二の殺人が…。打ちひしがれるエラリーは、真相に到達できるのか。
友人のミンチェン博士を訪ねていたエラリーは、第一の殺人に居合わせてしまった。探偵役が行く先々で事件に巻き込まれるのは、この当時からのお約束なのだろうか。そんなことはさて置き、解決編を読むと、エラリーは事件のかなり早い段階で犯人像を絞り込んでいたことになる。その根拠となるのは、真犯人の遺留品である一足の靴。
うーん、やっぱり第二の殺人が発生する前に手は打てなかったのかという気がしてしまった。機が熟するまで推理を開示しないエラリーの信念が、裏目に出てしまった。「靴」だけでは逮捕するに足る根拠にならないので、難しいところだが。
それでも、第二の殺人についての推論は見事。これだけでも読んだ甲斐があった。一見不自然に思える殺害時のシチュエーションが、ここまで鮮やかに解明されるのは快感だ。ぶっちゃけた話、国名シリーズ3作を読んだ限り、「読者への挑戦状」に至るまでがくどくて冗長に感じられるときもあったが、すべては最後の「快感」のためなのだ。
推理の醍醐味は別として、第二の被害者があまりにも気の毒というもの。こんな扱いを受けた上にこの仕打ちでは浮かばれまい…。当時、こういう捜査手法は法的に問題なしだったんだろうか。クイーン警視は墓参りくらい行ってきなさい。