Overseas Ellery Queen

エジプト十字架の謎

The Egyptian Cross Mystery

2007/01/09

 国名シリーズもようやく折り返しの5作目。エラリーは単身ニューヨークを離れ、連続殺人事件に挑む。父のクイーン警視はほとんど登場しない。しかも今回は…。

 ああついに来たよ来たよ、猟奇殺人が…。あたかもT字型のエジプト十字架のごとく、次々と磔刑に処される首なし死体。容疑者の行方はまったく掴めない。今回ばかりは降参か、エラリー? 冗長なのはいつものこととして、それにしてもだ。

 ええ、何回もやられた手にまたやられましたとも。もちろん簡単に勘付かれるようには書かれていない。エラリー・クイーンの作品を読んでいると、現在定番になっているあの手この手は古くから使われていたのだと、つくづく思い知らされる。ええ、騙された方が悪いですよ。でもやっぱり思う。そんなのありか! 気持ちいい騙され方じゃないんだよなあ。

 エラリー自身はその可能性に早い段階で気付いていたようだが、例によって確信するまで情報公開しない。エラリーが、その突飛な説を確信するに至った証拠とは。……。〇ー〇〇ン〇ですか。わざわざ太字で書かれているが、膝を打てませんでした。偶然に偶然が重なり、まさか〇ー〇〇ン〇で足が着くとは、真犯人も思わなかっただろう。

 エラリーが真相に至った後、自動車に鉄道に飛行機とあらゆる近代の交通手段を駆使した追跡行が始まる。クライマックスのはずなのに、ここまで読み進めるのに疲れていて盛り上がらなかった。ああもう、はよ捕まえて説明してくれよ…。

 僕ごときが言うのもおこがましいが、作を重ねるごとにシリーズの特徴である論理性が薄れているように感じるのは気のせいだろうか。首なし死体といい、東欧のある事情といい、怪しい裸族といい、肝心の推理よりもいささか奇をてらった演出の方が目立つ。

 そう感じるのは、同じ手を使った現代作品を読んでいたからなのだが。文章といい、現代作品の方が洗練されているのは当たり前。だから少なくとも、先人に敬意は払おう。そういえば、最近のある話題作も、この手のバリエーションの一つだな。



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