Overseas Sir Arthur Conan Doyle

緋色の研究

A Study in Scarlet

2006/06/01

 シャーロック・ホームズのシリーズに、長編は4作しかない(現代から見れば中編と言うべき長さだが)。本作はそのうちの一つであり、栄えあるシリーズ第1作である。しかし、名探偵シャーロック・ホームズの初登場編としては色々な意味で「弱い」。当時、各出版社に断られたというが、正直無理もなかっただろうと思う。

 この作品の印象を薄くしている大きな理由は、二部構成になっていて、なおかつ第二部のほとんどが真犯人の回想シーンに費やされる点にある。なお、長編4作中実に3作が二部構成である。『バスカヴィル家の犬』が唯一の例外だ。

 モルモン教を扱った第二部は、それだけで作品にすればいいのにと思うほど濃密な内容だ(かなりの誤解や偏見が含まれているらしいが…)。これでは第一部におけるシャーロック・ホームズの活躍が印象に残らないのは当然である。一方で、ページを埋めるための第二部という印象も拭えない。要するに、第一部と第二部が殺し合っている。

 第一部ではっきりと記憶していたシーンが一つだけある。スコットランド・ヤードの刑事が、殺人現場の壁に残された血文字の意味を自信満々に語るのだが、シャーロック・ホームズはあっさりと間違いを指摘する。これにはニヤリとさせられる。探偵小説において警察は道化役であるというお約束は、この当時からの伝統らしい。

 シャーロック・ホームズの物語は、少数の例外を除きワトスン博士の一人称で書かれている。ワトスン博士の従軍医時代のエピソードや、シャーロック・ホームズとの運命的な出会いなど、ファンには見逃せない点も多いことは触れておこう。

 シャーロック・ホームズの醍醐味はやはり短編にあると思う。これから読み始める方は、最初は短編集から入るべきである。この珠玉のシリーズにすっかり魅せられたことを自覚したとき、初めて本作を手に取るといい。



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