Overseas Isaac Asimov

黒後家蜘蛛の会 1

Tales of the Black Widowers

2010/03/07

 アイザック・アシモフといえばSF分野で有名な作家だろう。本作から始まる「黒後家蜘蛛の会」シリーズは、アイザック・アシモフの数少ない純然たるミステリーのシリーズであり、いわゆる安楽椅子探偵物の連作短編集であることから、興味を持った。

 「黒後家蜘蛛の会(Black Widowers)」とは、アクの強い6名の会員から成る。内訳は科学者、数学者、弁護士、画家、作家、暗号専門家。名前はいちいち挙げない。月一回の晩餐会に、ホスト役の会員がゲストを招く。ゲストが披露する謎めいた話に、6人が侃々諤々の議論をするのだが、真相を言い当てるのはいつも給仕のヘンリーなのだった。

 好みの問題ではあるが、シャーロック・ホームズのように自ら捜査するわけではないので、ワクワク感には欠けるか。そうなると、代表的な安楽椅子探偵と言われるヘンリーが解き明かす真相に驚けるかどうかで評価が決まる。

 盲点を巧みに突いた作品が多い一方、米国の図書分類法によって分類されたすべてのジャンルに著作があるというアシモフの博識ぶりが鼻につく作品もある。全編が面白いとは言えないが、読み進めてみたいと思う。

 以下、各編に簡単に触れておく。

会心の笑い ―― The Aquisitive Chuckle 1972.1

 ヘンリー初登場編にして、強烈に印象づける1編。この男を敵に回すと…。

贋物(Phony)のPh ―― Ph as in Phony 1972.7

 よくある話も、視点を変えてみれば…。本作中最も、現実にありそうなエピソード。

実を言えば ―― Ttuth to Tell 1972.10

 それは嘘じゃないと言えるのか?

行け、小さき書物よ ―― Go, Little Book! 1972.12

 この時代がかった手法の方が、現代の暗号化技術より堅牢に思える。

日曜の朝早く ―― Early Sunday Morning 1973.3

 本作の一押しだが、このアリバイトリックは現在の日本では実現不可。

明白な要素 ―― The Ovious Factor 1973.5

 確かに最も合理的な解釈ではあるが…。

指し示す指 ―― The Pointing Finger 1973.7

 ミステリー読みは無用な深読みをしてしまう。

何国代表? ―― Miss What? 1973.9

 逆に深読みが当たった例。聖書談義の末に、何だよこれ。

ブロードウェーの子守歌 ―― The Lullaby of Broadway

 ずいぶん話が大きくなったもんだ。

ヤンキー・ドゥードゥル都へ行く ―― Yankee Doodle Went to Town

 そもそもその歌を知らないし。何で歌うのか意味がわからないし。

不思議な省略 ―― The Curious Omission

 その作品のタイトルくらいは知っているけどさ。わかるあなたの方が不思議。

死角 ―― Out of Sight 1973.12

 これは現在でも応用可能な手かもしれない。

年月は「エラリー・クイーンズ・ミステリー・マガジン」の掲載号を示す。年月のないものは単行本のための書き下ろし。



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