坂木 司 04


切れない糸


2007/01/26

 ひきこもり探偵シリーズが完結した後の新シリーズである。今回の舞台はある商店街のクリーニング店。余談だが、社員寮の出入りのクリーニング店を思い出した。余計な折り目が入っていたり、シミが増えていたり、これ以上ない最低最悪の店だった。

 アライクリーニング店の長男新井和也は、父親の急死により家業を継ぐことになった。幸い、腕のいいアイロン職人のシゲさんが残ってくれた。シゲさん同様長年店を盛り立ててくれたパートの松竹梅トリオ、松岡さん、竹田さん、梅本さんにも助けられ、慣れない仕事に励む毎日。そんな和也の元には、なぜか衣類とともに奇妙な依頼が舞い込む…。

 シゲさんがいるような店に一張羅を任せてみたいもんだよ。さて、今回前シリーズの坂木に当たるのは和也。探偵役の鳥井に当たるのは近所に住む友人の沢田。沢田はひきこもりではないが、何やら訳ありと察せられる。探偵役がやはり料理が得意だったり、一度登場した人物がその後も登場したり、という前シリーズとの共通点は笑って許そう。

 前シリーズは登場人物こそ重要であり、舞台には特にこだわっていなかったと思う。新シリーズは人物はもちろん舞台が大きな意味を持つ。商店街という共同体が、今存亡の危機にある。人口が減る一方の僕の故郷ではほぼ死んでいる。ところが、大型店ができたらどこに隠れていたのかと思うほど人が集まる。そんな今だから商店街なのだ。

 商店街で生まれ育った和也は、時には近所付き合いを鬱陶しく感じる。そんな和也には、幼い頃からなぜか迷った動物が寄ってくるし、困った人を放っておけない。和也には自分の魅力がわかっていなくても、シゲさんや沢田など周りの人々にはわかっている。

 そんな商店街は、新しく来た人も拒まない。やがて彼らも、共同体の一員というわけだ。探偵役の沢田に鳥井のような近寄り難さは感じないが、すべてお見通しという怖さは感じさせる。これから和也と沢田がどう成長していくのか、楽しみなシリーズである。

 残念ながら閉店が決まったミステリ専門書店「TRICK+TRAP」で、坂木司さんご本人にサインしていただいた。「TRICK+TRAP」がある吉祥寺は、商店街が活気を維持している数少ない地域の一つだ。これも何かの縁かもしれない。



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