坂木 司 08


先生と僕


2008/02/02

 坂木司作品に登場する探偵役は、ひきこもり探偵鳥井を筆頭に変わり者が多い。今回の探偵役は最年少の中学1年生、瀬川隼人くん。その家庭教師で、やたら怖がりな大学生の「僕」、伊藤二葉。実はタイトルの「先生」とは二葉ではなく隼人くんなのである。

 男子中学生と男子大学生がしょっちゅう連れ立って出かける図というのは、ある意味鳥井と坂木の関係以上に奇異に映る。しかも主導権は常に隼人くんが握っているのである。超に超がつく心配性の二葉を、好奇心の赴くままに隼人くんが引っ張っていく。

 現実の犯罪は「けちくさくて、下らない」と言ってはばからない、ミステリマニアの隼人くん。実際、本作で取り上げられた犯罪(必ずしも犯罪ではないが)は、報道などでよく耳にするものばかり。多くの被害者が泣かされているのは隼人くんの言う「けちくさくて、下らない」犯罪なわけで、ある意味でこれほど深刻な作品集はないかもしれない。

 友人をして「一種の才能」と言わしめる二葉の負の想像力。石橋を叩いても渡らない性格の割に、あまりにも世間知らず。小説の中の人物ながら、都会で暮らしていけるのか心配になってくる。案の定、四話「額縁の裏」では…。僕が入学手続きに行ったときも、注意を喚起するビラが同封されていたものだ。隼人くんは正しい。しかし世知辛いよねえ。

 大学生が中学生に諭されるというコンビの妙で、気楽に読ませる作品集になっている。しかし、誰もが被害者になり得る「日常の犯罪」ばかりをテーマにしている点は決して笑い流せない。年末ランキングに無関係な本作は、実はミステリ界への痛烈なアンチテーゼではないか。というのは深読みしすぎだが、隼人くん、いずれやけどするよ…。

 各話の最後に、隼人くんは二葉に課題図書を渡す。隼人くんセレクトの二葉でも読めるミステリである。ミステリの大多数が殺人事件を扱っているのは事実。しかし、決して「ミステリ=殺人事件」ではない。坂木司さん自らが実証しているように。

 もっとも、隼人くんには物足りないようだが…。他の坂木司さんの連作短編集と比較すると、本作には明確な結末がない。続行する可能性もあるのだろうか。



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