坂木 司 09


夜の光


2008/11/15

 これは天文部に集うスパイたちが、最前線で繰り広げた戦闘の記録。

 などと帯に書いてあるから、どんな壮絶な話なのかと思ったが。要するに青春記であり、いつもの坂木節であった。部員4名、活動らしい活動もしていない天文部。彼らはお互いにコードネームで呼び合う。ジョー、ゲージ、ギィ、ブッチ。由来はいちいち書かない。

 それぞれに鬱屈し、家族との間に問題を抱え、仮面を被った4人。全5編中、最初の4編は4人が交替で語り部を務める。なかなか心を開かない彼らも、天文部だけは落ち着ける空間らしい。とはいえ、4人は親友というわけでもないらしい。帯の文句風に言うなら、高校生活という戦場を乗り切るまでの戦友ということなんだろうか。

 自分の受験生時代を思い返せば、共感できる点がないこともない。しかしねえ、誰だって悩みの一つ二つあるだろうけど、別に高校生活を戦場とまでは思っていなかったけどなあ。幸い家族との関係は普通だったし。それじゃあ物語にならないけども。

 そんな4人も天体観測には熱心だ。合宿まで計画している。もっとも、天体観測より学校の屋上で料理をするのが楽しみなようだが。顧問の田代先生は放任主義というか懐が深いというか。BUMP OF CHICKENのヒット曲『天体観測』を思い出す。そのものズバリのタイトルもさることながら、歌詞が4人の心情とマッチしている気がする。

 謎の要素より4人の事情に目が向きがちだが、ある暗号には笑った。そのためにいくら金かけてんだっての。坂木さんはこういうジャンルが好きなんだろうか。作風からは意外な気がする。それにしても、文化祭といい…大らかな学校だな。バイトは公認なのか?

 最後の「それだけのこと」は、4人の卒業後を描いている。地元の大学に進んだ1人以外は、家族から離れるという念願を果たした。それぞれの道を突き進む姿勢は大したものだが、未だに戦闘が続いているのは寂しいな。彼らのゴールはどこにあるのか。実家からの仕送りに頼っていた僕に、口を出す権利はないが。



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