瀬名秀明 16

小説版ドラえもん

のび太と鉄人兵団

2011/06/21

 僕が『ドラえもん』を読んでいたのは、小学校までだったろうか。本作は、『ドラえもん』の大ファンを自認する瀬名秀明さんによるノベライズだという。手に取った理由は、何はともあれ瀬名秀明の久々の小説作品であるから。そして、かつては夢中になった1人として、あの作品世界をいかに文章で表現するのかに興味があったから。

 本作の原作は、2011年公開の映画版第31作『ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団 〜はばたけ 天使たち〜』だが、1986年公開の映画版第7作『ドラえもん のび太と鉄人兵団』のリメイクである。設定は大きく変えていないという。両作品とも観ていないので比較はできないが、読んでみると古さは感じない。今を取り入れつつ、作品世界は壊していない。

 ロボットが支配する星・メカトピアから、鉄人兵団が地球に襲来するという。人間を奴隷とするために。必死に訴えるドラえもんとのび太だったが、誰も取り合ってくれない。そして、鉄人兵団と戦う決意をするのだった。無数の敵に対抗する人類側は、のび太、ジャイアン、スネ夫、静香にロボットのドラえもんとミクロスを加えた6人(?)のみ…。

 ぶっちゃけた話、これは戦争だ。敵の目的は人類の奴隷化。『ドラえもん』らしくないハードな設定である。敵は純粋なロボットなので、撃墜しても痛みを感じないのが救いである。どうして人類側がわずか6人なのか? そこがキモなので詳細には触れずにおきたい。人類の犠牲者がゼロであることは書いてもいいだろう。だって『ドラえもん』なのだから。

 鍵を握るのは、メカトピアから派遣された少女型ロボット・リルル、そして戦闘には加わらない静香。メカトピアへの忠誠を誓っていたリルルだったが、 地球人と関わるうちに心情が変化する。リメイク版のサブタイトルの意味は、結末近くで明らかになる。終始シリアスタッチながら、友情や泣きどころなど、ツボを押さえた傑作ノベライズと言えるだろう。

 なお、ドラえもんとのび太の訴えに耳を傾けた大人が1人だけいたことに触れておきたい。原作者の藤子・F・不二雄氏が亡くなり、大山のぶ代氏ら声優陣が交代した現在でも、『ドラえもん』の人気は不変である。久々に漫画版を読んでみようかなあ。



瀬名秀明著作リストに戻る